第12話 消された種族と秘宝の匂い?

 この世界には、人間をはじめ知性を有する種族が何種類もいる。それは今でも変わらない。


 影響力のある順番から種族序列として並び、我々人族も第15番目に位置している。


 人族は人数こそ多いが、他種族に比べ非力であった。種族序列最上位の関係者からの施しを受け、人族、もしくはハーフなど『人族』に関係のある者に能力を与える者を『神官』と呼び、力を授ける事で種族の消滅を防いできた。


 今でこそこの世界は自然に溢れている豊かな世界はだが、遥か昔、人工物が世界を制していた時代が存在した。


 知性を有する機械種【エクス・マキナ】


 生物という概念とは対となる人工物の生成に特化した種族であり、自動で物を動かす技術に特化していた種族だ。


 彼等が生み出すアイテムや道具、大型の創造物は『魔力』というエネルギーを使用せずに別の力で動いていた。


 彼等だけが知り得る未知の力を動力源に動いていた為、他種族からすれば魅力的であり、そして驚異的でもあった。


 謎の技術で世界に自動構造物オートマタを生み出す種族、エクス・マキナは当時種族序列第3位まで登りつめた。


「だが、エクス・マキナにはある疑いがかけられた。シイナ、何だかわかるか?」

「疑い? う~ん、わからない」


「『全種族を滅ぼす事が可能な兵器を開発している』という情報が瞬く間に拡がった。その情報が事実かどうかの確認を取らず、他の種族が手を取り合い、エクス・マキナという種族は封印された……というお話さ。ここアクアティカだけではなく、全世界で子供用の読み聞かせ用昔話として有名な作品さ」


 リレイ組合長は「誰もが知っている話さ」と笑いながら教えてくれた。だが、彼は笑うのを止め真剣な顔つきになった。


「『表向きは……』な」

「どういうことかしら? 半獣の私の村ですらあった【悪者種族は追い払え】の絵本の続きなんかあるのかしら?」


「ファナ『続き』ではない。寧ろ『偽り』があったのではないかと、俺は推測している」


 リレイ組合長は確かな声で澱みや含みを持たせず言いきった。


「偽りですか?!」

「あぁ、シイナ。この世界の常識からすれば、エクス・マキナという種族は架空の種族。存在したとされる情報は何一つ残っていない。他種族を滅ぼす古代兵器も作り話で、オートマタが存在していたかどうかさえ確認できていない。これが全てだった」


 リレイ組合長は振り返り、こちらを見た。


「いないとされているモノを『いない』と認識するのは容易い。だが、いないとされているモノを『存在していた』と証明するのは難しい」


 確かにそうだ。河童やネッシー、宇宙人さんを『見た』と騒いだとしても、嘘つき呼ばわりや変人扱いを受けて終わりだ。生きている状態で公の場に連れてこなければ意味がない。


「だが、少なくとも俺は君達が体験した嘘みたいな出来事が『真実かもしれない』と疑いながらこれまで生きてきた。人は嘘を吐く生き物だ。だから、人が伝承してきた全てが正しいだんて事はない。考古学は違う。過去は嘘をつかない」


 リレイさんの言葉は真っ直ぐだった。


 決して、風潮や人からの伝承に流されずこれまで生きてきたのであろう。


 もしかしたら、私達の活躍をアーリエさん経由で聞いていたからこそ、初めは私達の事を敢えて疑って接してくれていたのかもしれない。


 他人から貰った情報を鵜呑みにせず、色眼鏡無く見極める為にーーーー


【私達2人が信用に足る人物かを見極める為に】


「2人が体験した事、俺に話してくれてありがとう。是非、参考にさせてもらいたい。そして、体験した事は疑わないでほしい」


 一呼吸おいて組合長さんは言った。


「俺の調べでは、オートマタ及び、機械種:エクス・マキナは実在する」と。


 そして、彼は口に含めた空気を一気に吐き出す。白い煙が空気と混ざりあい、存在しなかったかのように消えていく。だが、目には見えなくとも煙草の匂いだけは確かに存在していた。


「リレイ組合長さん。この前、仰ってましたよね。秘宝の調査だけで『回収はするな』と。それはただ単に『古いお宝の保存の為、素人は触るな』って理由だけじゃないですよね? 秘宝を護るオートマタ、そしてエクス・マキナの存在と密接している。それでも、私達に回収させなかった別の理由があるってことですよね?」


「……驚いた。シイナの洞察力には類をみない何かを感じる。出来れば君達には調査をお願いし、回収は俺が行おうと思っていた。何せ、この秘宝には『呪い』があることからな」


 そう言って、リレイ組合長さんは脚を見せてくれた。すると左足首に古いアンクレットリングが装着されていた。


「これは、死んだ親父の形見でさ。ダンジョン内で遭難した際に偶然見つけた品らしい。鑑定に出しても無価値だと突きつけられた。だが、親父は『これは意味のある物だ』と言い張り、亡くなるまで保管していた遺品さ」


 私はリレイ組合長さんのアンクレットリングを見つめていった。


「解除不可の呪い……ですね」

「あぁ。【半宵はんしょうけがれ】だ。深夜帯になると俺の身体は呪いにより、人の身体ではなくなる」


 なるほど。だから、夜は街にいないで洞窟やダンジョン探索に行っておられたのか。


「リレイさんは、呪いの秘宝を見つけて、そして回収して何をされるおつもりですか?」

「察しがいいあんたなら、その疑問は当然だ。内密で頼むぞ?」


 リレイ組合長さんは教えてくれた。


 違う街の王族が、秘宝を集め、呪いの力を利用して武力集団を作りたがっているとのこと。ここからは定かではないが、怪盗S、つまりソネルちゃんが集めているという情報を元に、接触する可能性があるとのこと。また、情報をソネルちゃんに流し、盗ませている線も考えられるそうだ。


「怪盗Sに盗ませたとして、秘密裏に秘宝を集めている王族が対価を払うとも思えないな~」

「あぁ。だが、秘宝絡みの問題は領土拡大云々を企む王族ばかの暴走ではない。集めることで作動したオートマタ、そして機械種:エクス・マキナの存在だ。彼等がもし復活するとなると……」


 最後まで聞くまでもなかった。封印された種族が存在し、仮に目覚めたとなると、封印された腹いせに種族間戦争を勃発させかねない。リレイ組合長は、その最悪の事態にならないよう立ち回りたい。それが彼の願いだった。


 当時の種族間序列3位まで上り詰めた上位種だ。エクス・マキナが復活してしまえば、感情1つでこの世界を破滅に追いやる事もありえるだろう。

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