第22話 動き出す復讐と憎悪

「ここが……海底神殿の最奥」


 思わず息を飲む。神殿の雰囲気は海底神殿の入口から漂っていたが、転移先は入口に比べ圧倒的であった。


 天井までの距離は遠く、それでいて厳かな装飾により空気が重たく感じる程。私みたいな小さなハーフエルフ1人が巨人の世界に迷い込んだかのような錯覚に陥ってしまう。


 見た目だけではない。海中に眠っていたとされる神殿だが、ここは海水の匂いが届いていない。


 海水が中に流入しないよう施されていたのだろう。カビ臭いは無く、神殿の古い独特の匂いがし、緊張感が増している。


【圧倒的な熱量は他を萎縮させる】


 正に言葉の通りの空間だ。


 歩く音を響かせる事さえ躊躇ってしまう程の威圧感。だけど、怯んでばかりもいられない。


 私は力を獲る為に独りでこの場にやって来たのだ。


 もし仮に、この場にBOSS級のモンスターが現れたとして、ここで命を落としたとしても、後悔はしても悔いは残らないだろう。


 そう。独りの私に残るものだなんて1つもない。


 私は中央の広場のような空間を抜け、真っ直ぐ歩く。向かった先は目の前に見えてきた祭壇。


 今までより少し大きい箱だ。開けた瞬間、眠りから醒めた邪が私を喰らうか、それとも力が吹き零れ私を襲うのか……


 予測不能の事態が私を襲おうとも、被害は私だけだ。シイナお姉ちゃんやファナさんを巻き込まずに済むのであれば、それで大丈夫。


 大きな箱はとても頑丈そうで、華奢な私独りで開けられそうにもない。見たところ、私の体重の10倍はありそうな重厚感。


「どうやって、開けるの……かな」


 困っていたとき、私の頭に乗せていたティアラが反応し光り出した。


 その光りに反応し返したのは目の前にある大きな箱だ。ゆっくりと蓋が開いた。


 すると中には、予想外のモノが入っていた。


「………人?」


 『人』だと確信に到らない。姿はしっかりとわかるのだが、肩の関節辺りに繋ぎ目のようなモノがあり、人として違和感がある。


 『人』ではなく、秘宝を護っていた『オートマタ』のような雰囲気さえ感じる。


「この子は……いったい」


 私が呟いた、その時だった。


 箱の中に横たわっていた者の目がゆっくりと開き、上体を起こした。


「おぉ!! 私目覚めちゃった感じ?!」


 起きた途端、大きな声を出した彼女。第一声から溌剌とした言の葉が駆け出した。


「あの……貴女は?」

「て、敵……じゃなさそうだね。もしかして、あんたが私を起こしてくれたってノリ? 封印とか解いちゃったわけ?」


「えっ、あ、はい……この、オールド・トレジャーが反応したみたい」

「えっ?! うっそー!! じゃあ、封印を解除するそのティアラを護っていたオートマタぽんこつからの妨害も貴女が掻い潜っちゃった感じ? 最高過ぎる、あはははは」


 な、なんて気さく過ぎる人なんだ、この人は。会ったばかりの私に対して、ここまで楽しそうに話すだなんて。


 ……それにしても怒涛の勢いて話し始めた彼女。言葉の途切れは無く、主語やら動詞が行ったり来たりで、理解できない。


 一文一文、ゆっくり話してくれないかなぁ……


 でも、どことなくシイナお姉ちゃんみたいなフレンドリーさを感じる。


「わ、私はソネル。ハーフエルフのソネル……貴女は、いったい?」

「あ、ごめーん! 挨拶まだだったね? 私はテオ。種族はエクス・マキナだよ」


 エクス・マキナ。


 嘗て、この世界を席巻せっけんしていたという種族。だがそれは架空の種族として語り継がれていたレベルであり、実在し、そして目の前で生きている事に私は驚きを隠せないでいた。


「貴女、本当に機械種のエクス・マキナ……なの?」

「うん、そうだよソネコ」


「ソ……ソネコ」

「ふはは~。なんか、ネコっぽいオーラを纏っていたから『ソネコ』どう?! 超可愛いでしょ?」


 ……なんだ、なんだ、なんだこの人は。


 テンションがやたら高くて、私とは真逆の人間。エルフが住む領地には、ここまで陽気な方はいなかった。


 自らを機械種と言い張ってはいる彼女。


 シイナお姉ちゃんが他世界に住んでいた時『機械種に似た存在がいた』という話を以前聞いたことがあった。ゆっくりと歩行する二足歩行型の自走するオートマタによく似ているらしい。


 ただ、その存在達は『個の感情』が無く、指示された内容だけを忠実に再現するとのこと。


 私はてっきり、この世界に機械種がいたとしても、シイナお姉ちゃんの住んでいた世界にいたモノと同じレベルだと思っていた。


 感情も無く、表情も無く、


 オートマタのように無慈悲に殺戮を行う存在だと思っていたのに……


 目の前にいる、機械種は私の予想とは違った。


「さて、ソネコっ! 貴女が人族じゃなくて良かったよ~!」

「どういう……こと?」


「だって~、機械種は……」


 機械種のテオが私に何かを伝えようとした瞬間、大きな音と共にオートマタが姿を現した。


「あ、やっぱり作動した!! むぅ、本当に超ぽんこつ&あんぽんたんだな、あのオートマタは」

「敵……排除シマス」


 蜘蛛のような形のオートマタは紅い眼を光らせたながら、私達2人に近づいてきた。


「ねぇ、貴女が機械種なら、オートマタを操れるの……では?」


 私はそう尋ねると【自称:機械種】のテオさんは申し訳なさそうな笑みを浮かべ謝罪した。


「あはっは~。本来はそうなんだけど、オートマタがハッキングされていたようで、私達機械種が目覚めないよう監視するようプログラミングされちゃっているようでさぁ~超腹ぷんなんだけど」


 超腹ぷんの意味はよくわからないが、恐らく多少なりともご立腹されているのだろう。


 機械種テオさんが嘘をついていないことはわかった私は彼女に近づいた。


「貴女達、機械種にお願い事があってここまで来た。貴女にここで死なれては……困る」

「ちょっと嘘ぉ?! ソネコは私を助けてくれるの?! ハーフエルフ族と私達『機械種』って助け合う仲だったっけ? 超嬉しいんですけどぉ!!」


 頭の上に置いた左手でピースサインを作り喜びを表現しているテオさん。


 戦闘に特化している方かは判らない。全力で彼女を護る為、私は前衛を務めた。


「お護りします……テオさん」

ひっさし振りの運動だぁ~!! 棺の中超窮屈だったし~」


 出会ったばかりの彼女と私は、作動したオートマタを止める為、立ち向かった。



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匂いフェチの私、転生先はモンスターだらけなので、片っ端から『くんかくんか』したいっ! 玖暮かろえ @karoe_k

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