第7話 ギルド管理組合のおじ様は強者の匂い?
私はアーリエさんに連れられて、ギルド管理組合のスタッフだけが入れる関係者以外立入禁止の場所へと案内された。
奥へ案内された所は応接室のような場所だった。作戦会議を行うようなテーブルがある部屋とは違い、高級感のある低い腰掛け椅子があり、所謂『おもてなしの部屋』であるように感じた。
「そこに掛けてお待ちいただけますか?」
「いぇ、こんなにいい場所に通していただけたって事は、大事な話ですよね?」
何となく察した私は、フカフカそうな椅子には座らずに立って待つことにした。
すると暫くして、奥の扉から1人の男性がやってきた。右目には大きな古傷を負い、左目だけで歩行されていた。
恰幅が良く、体幹も鍛えられているようで、白髪ではあるが年齢を感じさせないおじ様だった。こんな方にならお姫様だっこをされても嫌な気はしなさそうだ。むしろされたことがないので、オナシャスです。
「ふむ……例の
「は、はい! 彼女が香山椎菜様です」
アーリエさんはかなり緊張した様子で応えているのがわかる。差し詰め彼はこのギルド管理組合関係の重役なのだろう。
しまったなぁ。こんな事なら、冒険者登録書の備考欄に体重も書いておくべきだった。
しかし、彼はいったい何者なのだろうか。
「はっはっは。そう警戒しなくとも良い。リラックスしてくれたまえ」
そう促され、言われるがまま座った私。
「まずは、街を救ってくれた事、誠に感謝する」
「いえ、私以外の冒険者さん達が被害を食い止めてくださいました。私は別に何もしていません。それに、討伐せずモンスターを逃がしたかのような形になってしまって……」
「何も謝る必要などないぞ。討伐が目的ではないさ。このまま戦闘が続けば、前線組のメンバーは全滅。街の更なる損壊も十分あり得た。『対話』による終息。流石、テイマーといった所じゃのう」
そう言ってもらえて安堵した私は、大きく胸を撫で下ろさした。
「あ、そうそう!
失敗ばかりでは無いことをアピールしたいが為に、取ってきた薬草をアーリエさんに手渡しした。
「不安定な状況だったに、お疲れ様でし……えっ、この薬草……、えっこれも……」
受け取ったアーリエさんは、薬草を見て酷く困惑していた。もしかして、事前に嗅ぎ過ぎたので、私の鼻水でも付着していたのかしら。大変申し訳ありません。
それ、私の心の汗です。ご容赦ください。
「汚いようでしたら、すぐ新しいの採取して来ます!」
「いいぇ、そうではないのです。シイナ様が採取した薬草がその……希少種の薬草なのです。一度にこれだけ採取出来るなんて信じられなくて」
アーリエさん曰く、普通の薬草畑に低確率で希少種の薬草が生えているらしい。見た目で判別するのは不可能らしく、また周辺の薬草を採取するなど、辺りの環境が変わると直ぐに枯れるらしい。
乱獲しても手に入らない。その為、『幻の薬草』として高値で取引されているとの事だった。
「希少種だと、良いことあるのですか?」
「勿論です。使用すれば、体力の回復だけでなく、ステータス一時上昇、デバフ無効化、運気上昇、解毒効果に麻痺無効……他にも数えきれない程の効果があるのですよ」
やっぱり。一番いい匂いがする薬草だけを厳選して選んだ甲斐があって良かった。
アーリエさんの話では希少種の薬草を採取する方法はただ1つ。『希少種だけを採取』すれば収穫できるらしい。
「希少種をどうやって判別されたのですか?」
「あ……たまたま抜いただけでして……あははははは」
言えない。
良い匂いがする薬草を選ぶ為、また四つん這いになって、ゴキ●リかのように嗅ぎ回っていただなんて、言えるわけないじゃない。
「ほほう。案ずる事はないぞ。希少種の薬草採取だけでなく、モンスターを追い返した街の英雄だ。そんなお主に何も咎める事は在りゃしない。お主の肩に乗っておる、そのスライムを『テイムしたまま街中を歩いた』としてもじゃ」
このおじ様は見抜いていた。完全に透明化し、アーリエさんでさえ確認できなかったライムちゃんを。
存在に気づかれてしまったライムちゃんは色を取り戻し、猫が伸びをするかのように、眼を細くしながら「ぬ~ん」とストレッチしていた。
「ほぅ……。これはスライムの中でも亜種のスライムじゃないか。色も違うし、能力値も高そうじゃのう」
「そうなんですか? 私まだこの世界に来て間も無くて」
「そんなスライムを従えるなんて、大したテイマーじゃな。自己紹介遅れて申し訳ない。ワシはこのギルド管理組合の長をしているローガン・ファルゲルスだ」
「く、組合長さん?!」
「驚かんでくれて構わない」
「いいえ。ローガン様はかつて神獣の一角と互角に戦われた経験をお持ちのS級ランク冒険者様なんですの」
アーリエさんは誇らしそうに教えてくれた。
「アーリエくん、過去の話は止してくれ。今は名ばかりの只の老いぼれじゃ」
老いぼれ? 滅相もない。鍛えぬかれた胸板にそのたくましい太い腕。そして太ももぉ!! 今でも現役なのは私なんかでも一目でわかります。
そして、匂いを嗅ぐ隙を見せてくれない……。このおじ様、ただ者じゃないわ。
「組合長さんが直々に私を呼んでくださったのは、ライムちゃんをご覧になられる……だけではないのでしょ?」
「……ふむ。希少種のスライムをテイムし、そしてその洞察力。お主は駆け出しのFランク冒険者には見えぬのぅ。様々な経験値があるようじゃ」
いかにも! RPGは舐めるかのように隅々までプレイした作品が私の部屋に積まれているわ。
それこそ、冬のコンビニのレジの名物にもなっている『おでんのカップを重ねて柱を作ってみました』と同じように、私の部屋にもゲームのパッケージが床から天井まで隙間なく積んであるわ。
これで家の耐震強化に一役買っている気がするわ。
「そして、自信に満ち溢れた眼。ワシにはわかる。この世界に来る前にも相当の冒険をしておるのが」
組合長さんは、そう言いつつも眼は既に笑ってなどはいなかった。
組合長さんの話では、この世界に棲むモンスターの縄張りが何者かに荒らされているようで、モンスター全般が通常とは異なる殺気や気性を見せているとの事だった。
このギルド管理組合に寄せられる依頼の増加が著しいのはその影響が大きく関わっているらしい。
「誰かがモンスターの縄張りを荒らしている? その『誰か』に見当はついている……ご様子ですね?」
「……恐ろしいのう。じゃが、残念な事に、見当がつくまでの情報はまだ此方も獲ていないのじゃよ。だが、少ない情報をかき集めているうちに、一つ引っ掛かる事があってな」
「私なんかに教えてくださるのですか?」
「あぁ。街を救ってくれたお主だけにな。モンスターの縄張りを『モンスターではない何か』が荒らしておるのじゃ」
「モンスターではない何か? それは蒼い色のドラゴンですか?」
「なっ……お主、まさか神獣ネプトゥヌスと遭遇したのか?」
「えっ……ええ。手も足も出ませんでしたが」
「驚いたわい。まさか、ワシ以外にも神獣と対峙して生きている人間がこの街にいるとは……。だが、残念じゃ。ワシ等の考察では神獣とは違う。別の何かが原因だと睨んでおる」
そう言って、組合長さんは椅子から立ち上がり、窓越しから街の様子を観てから私にこう言った。
「何者かが、何かを従わせモンスターを殺している」と。
「だから、スライムをテイムしている私をここに呼んだのですか?」
「あっはっは。『初め……』はな。だが、お主が原因では無いことも直ぐにわかったさ。お主を呼んだのは他でもない」
笑みを浮かべつつも組合長さんの眼は何か自信に満ちているようだ。
「お主には秘密裏に、この異変の調査をお願いしたい」
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