第14話 単独の洞窟で嘘つきの匂い?
響き渡る足音が今の状況を嫌でも伝えてくる。耳に届く音は私の靴から発せられた音のみ。ファナちゃんの足音もなければ、ファナちゃんが操作するお人形さんの足音さえしない。
ここは特殊洞窟【ミザラギ洞窟】。アクアティカの街から比較的近い位置にある洞窟ではあるのだが、ここは他の洞窟とは違い入口に特殊な結界が張られている。
この洞窟に入る際、単独でしか中に入ることが出来ず、中に入った瞬間洞窟内の何れかの場所にランダムで強制転移される。
つまり、ファナちゃんと時間差で洞窟内に入ったとしても会えない可能性がある。
また、この洞窟では脱出する方法が幾つも存在しており、容易に出る事は可能ではある。だが、このミザラギ洞窟の入口付近には強力なモンスターが出現するのも事実。
「弱ったあんたが洞窟から出てきたとき、ぬるぬる系が出たら誰があんたを護るのよ?!」と説教され、入口付近のモンスターを狩り尽くすと言ってくれたファナちゃん。
へカティアちゃんのもとへ先に会いに行ってくれてても良かったのに、私の身の心配をしてくれていた。
本当に優しい人だ。誰かを護りたいと想うのはラルディーリーお姉ちゃん譲りなのかもしれない。
ここミザラギ洞窟内に潜入後、私は直ぐにうーちゃんとライムちゃんを影から出した。
トラップハンターのうーちゃんには、鼻をヒクヒクしながら探知に勤しんでくれている。
ミザラギ洞窟は別名【処刑の洞窟】と言われている。アクアティカ近郊で重罪を犯した者のうち、『処刑すべき者』と下された対象者はこのミザラギ洞窟へ連れて来られるそうだ。
転移結晶などのアイテムを所持していれば、簡単に入口まで帰って来られるのだが、処刑者は何も持たされず、この洞窟へ送り込まれる。
飢え死にをしようが、モンスターに噛み殺されようが、後は野放しと言うわけだ。
例え、無事に脱出出来たとしても、入口付近に群れを成しているブラッドウルフに噛み殺されるだけだ。
外はファナちゃんとリレイ組合長さんが待機してくれている。私の無事は保証されているが、処刑者の明日はないだろう。
「オートマタのフォルムは俺が把握したから、俺が行く」とリレイ組合長さんは言っていたが、ソネルちゃんやオートマタが駆動した場合、彼とて無事では済まないだろう。
探知に長けたうーちゃんやライムちゃんを率いる私が、ソネルちゃんに何度も遭遇している私が、探索した方が効率的だと感じた私は「私が行きます」と言ってしゃしゃり出た。
組合長から、高価な転移結晶を持たされ「すぐに使えよ」と念を押された後、洞窟内に潜入している。
「うーうー」
毒ガス装置に、落とし穴、吊り下げ天井の落下装置等。悪趣味とは言い難い程の無数のトラップがあることを教えてくれた、うーちゃん。
初見では回避不可能な罠を発動せずに私たちは奥へと進んだ。
「キュル?」
ライムちゃんも大活躍だ。モンスターと遭遇しても、一瞬で通路を塞ぎ、援軍を呼ばせない徹底っぷり。私が直接下さなくとも、ペットの2匹が早めの初期消火を行ってくれていた。
単独を強いられている状況下で、モンスターをテイムしている私はある意味チートの類いかもしれない。
「
「え……あ、はい! お師匠様っ」
影から目だけを出し、私に忠告をしてくださった蛙師匠。トラップやモンスター対策は万全ではある。
しかし、それだけがこの洞窟の脅威というわけではない。
処刑者に遭遇する、もしくはオールド・トレジャーを求めてソネルちゃんと遭遇する可能性もある。
ここまで万全である私でさえ、この空間に来た瞬間に緊張感が全身を襲った。
無数に転がっている
閑静な空間ではあるが、この場に投げ捨てられた処刑者の感性すら奪った無慈悲な空間だということは間違いない。
こつ……こつ……こつ……
向こうから聞こえてくる小さな音。聴力強化を施した私でさえやっと聞こえてくる距離だ。
モンスターの足音では無さそうだ。だが、躊躇いも不安もなく一定の速度で此方に歩み寄っている。
認識阻害率を高め、やり過ごす方がいいかと一瞬考えたが、聞き覚えのある足音だと認識できた為、敢えてそのまま迎えいれることにした。
「ソネルちゃん……だったんだね」
まだ姿は見えない。だが、彼女に伝えたあと、ひょっこりと姿を現せてくれた。
「その声は……シイナさん」
「ははは。シイナで良いよ~またこんな所で会ったね~!! ソネルちゃんに会いたくて後ろをつけていたんだよ、ぐへへへへ」
「嘘は私に通用……しない。秘宝の調査って顔……してる」
ははは。流石、嘘を操る
「とまぁ、理由はどうであれ、またソネルちゃんとはどこかで出会えると思っていたよ。さぁ、前盗んだ秘宝のアンクレット、危ないから私に渡しなさい。良い娘だからね? 秘宝コレクターの、このお姉ちゃんに渡してちょうだい」
「前のオメガポーションは見逃してくれたのに。貴女も結局、その辺にいる一般人と一緒で秘宝の虜……な」
ソネルちゃんは、残念がる様子でため息をついていたが、私の表情を見るなり言葉を止めた。
「どうしたの?! 私の顔に何かついてる?」
「いや、やっぱり貴女は他の人間とは違う。そして、嘘つくのが超絶下手……過ぎ。最早、センス云々の域を越えちゃって……可哀相」
ぬぁっ!!
ぐさりと抉る一言をまた頂戴致しました。
いやいや、ソネルちゃま。詐欺師の貴女に通用する嘘を使えるなら、私の属性濃すぎない?!
影も使えちゃうし、
古代詠唱発動しちゃえるし、
ヘカティアちゃん知り合いですけど?!
……。
まぁ、
ラルディーリーさんの足元にも及ばないし、
魔神さんは顔怖いし、
ヘカティアちゃんは私の死亡待ちなだけなんですけどね。
「でも、貴女には敵意がない……なぜ?」
「何故って言われてもなぁ……ソネルちゃんの匂いにしか興味ないからな~」
「えっと……えっ?」
「あ、だから、『ソネルちゃんの本当の匂いを……匂いを嗅げたら……ぬっふ……良い匂いのんだろうなぁ~』って思っているくらいだよ?」
「お願いですから嘘だと……言って」
ん?嘘じゃないぞ?!
人の匂いばかり真似して本当の匂いを教えてくれない秘密主義さんの匂いはさぞかし美味しいんだろなぁ~って妄想してるだけですぞ?
「シイナさんは……変態さん?」
「し、失礼な! 変態って、人に危害を加えている人を『変態』って呼ぶんだよ、たぶん」
「私、シイナの匂いに対する執着心が脅威で……怖い」
私はソネルちゃんに近づいて手で口を塞いだ。
(お喋りはここまで。また、後でしようね)
いきなり口を抑えちゃったからソネルちゃんは少し吃驚した表情を見せたが、私の行動の意図を汲み取ってくれたのか、怒らず身を預けてくれた。
(オートマタが……いるの?)
(ほほう。流石、ソネルちゃん。宝箱の近くにいた動く物体を『オートマタ』と発言するのは勇気があるね~。ソネルちゃんは絵本好きか考古学者さんかい?)
(どちらでもないし、興味もない。私はこの世界において『嘘』や『偽物』だと処理されたモノに興味があるだけ)
なるほどね。だからオートマタっていう単語に対しても、違和感なく受け止めているのか~。
「だけど、この音は……足音は違う。モンスターだよ」
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