『帰宅→病院』

「ただいま…」


痛い左手を庇うように学校から家に着いた。


「おかえり~」


お母さんが台所から出てくる。


今日は、カレーかな?


いい匂いがしている。


【カラーン】


お母さんが持っていた、おたまが落ちる音。


お母さんが迫ってくる。


「ちょっと、美奈、これ…」


そう言って、左手を掴む。


青く腫れ上がった私の左手。


「何があったの?」


問い詰めるお母さん。


「…えっと、ぶつけたの」


…嘘は言ってない。


その前の事を省いただけ。


「ただ打っただけじゃ、こんなに腫れないでしょう?誰がやったの?」


さらに問い詰められる。


お母さん、顔、怖いよ…


お母さんは、ため息をついてから


「美奈の性格じゃ、イジめられても仕方ないって思っていたけど」


…それ親の言うセリフなの?


「とにかく病院行きましょ」


そう言って、エプロンを外す。


「でも…ご飯…」


「ご飯より、娘の怪我です」


キッパリと言い放たれた。


それから、お母さんに連れられて大きな病院へ。


一応、ちゃんと診てもらった方がって、お母さんが。


私が、検査を受けている間、お父さんに連絡していたんだろうね。


検査が終わる頃、お父さんが病院に駆け込んできた。


「み、み、美奈!怪我は?」


すごい勢いでやってくる。


「もうすぐ結果が出ます」


お母さん、意外と冷静。


「お前、何、落ち着いているんだ?美奈が怪我したんだぞ?それもただ打っただけじゃあ、こうならないってお前言ってただろ?」


お父さんは、完全に狼狽している。


「聞きたくとも、こんな所じゃ無理でしょ?」


お母さんは、冷ややかに言い放った。


「それに、後で凛ちゃんに電話で話を聞く手筈になってますから」


やっぱりお母さん冷静だ。


そこで、やっとお父さんは落ち着いたようだ。


「そうか…」


コホンと小さく咳払いする。


あれ?お父さん仕事は?


就業時間は過ぎてはいるが、お父さんは大抵が残業や付き合いで帰りは、早い方ではない。


「お父さん…仕事は?」


私の問いに


「あぁ…部下に任せてきた」


え?


私は、驚きのあまり声が出ない。


「仕事と娘だったら、娘だからな」


はっはっはっ…と豪快に笑うお父さん。


それでいいのか?


ツッコミどころはあるけど、お父さんのキモチ、すごく嬉しかった。


「ごめんなさい。…ありがとう」


小さな声で私が言うと、お父さんの顔が綻ぶ。


「美奈は、やっぱり可愛いなぁ」


親バカ全開で、にっこにっこと笑う。


それを冷ややかに見ていたお母さんは


「お父さんが、そうやって甘やかすから…」


とため息交じりに言う。


「美奈は、もうちょっと強い子にならなきゃ」


続けてお母さんが困ったように言う。


お父さんは、ムッとしながら


「美奈は、このままでいいんだ」


そう言うと


「ダメよ!人にモノを言えないと、社会に出てから困るんです!美奈は、もう高3なんですよ」


お母さんの言葉が、ズシッとのしかかる。


あと、少し…


あと少しで、航平君ともお別れになるんだ。


悲しくなってきた。


あんなヒドイ事されたのに、私はまだ好きなんだね。


沈んだ私を、お父さんはどう誤解したのか…


「美奈、お前はいつまでも、お父さんの所にいていいんだよ」


私を励まそうとしてくれてる。


「…もう」


お母さんは、呆れたように息をつく。


こんな家族が、大好き。


お父さん、お母さん


ありがとう


私を大切に育ててくれて


ありがとう


私、頑張るね。


頑張って、少しでも強くなるね。


検査の結果、骨には異常はなかった。


よかった…


お薬は、湿布と痛み止め、あと抗生物質を処方してもらった。


一安心するけど…


でも…


家に帰ったら、お父さんとお母さんに話をしなくちゃいけない。


お母さんが、凛ちゃんに話を聞くって言っていた。


凛ちゃん、きちんと話すだろうから…


心配性の両親が、学校に電話しないか不安。


下手したら、深田さんの家にまで抗議するかもしれない。


そしたら、ヒドクなるかも…


もっとヒドイ事言われたり


もっとヒドイ事されたり


そう思ったら


怖くて


怖くて


家に帰りたくなくなった。

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