『新学期の始まり』

あの花火大会以来、航平君とまともに顔を合わせられない。


自然と航平君を避けるようになって…


夏休みは明けた。


新学期、新たな気持ちで迎えたいけど…


私の心は、相変わらず悶々としている。


どうして、私にキスしたの?


どうして、私に触れたの?


どうして、抱きしめてくれたの?


もしかして…


あなたと私の想いは…通じているの?


私の中で、そんな勘違いが


ぐるぐると回っている。


いつもの通学路。


周りには、たくさんの学生達。


そして…


「おっはよー」


いつもと変わらない凜ちゃん。


「おはよう」


出来るだけ笑顔で答えてみる。


そういえば、花火大会。


次の日に、凜ちゃん達とハグレた事を謝ったら、一蹴された。


どうも、私と航平君を2人きりにする為に、わざとハグレたんだって。


お気遣い、どうもです。


凜ちゃん達には、その日にあった事を素直に話した。


2人とも顔を赤くして


『うわ!大胆!』


とか言われて、私も恥ずかしくなった。


やっぱり、あれって恥ずかしい事なんだね。


うん…


だから、余計に航平君と顔を合わせづらい。


『告白してみたら?案外OKもらえるかもよ』


なんて、楓ちゃんは言う。


返事は、OKもらえると思う。


航平君は、来る者拒まず…みたいだし。


でも、それは【好き】という感情はない。


私の一方通行の想いでしかない。


だから…


「よっ!航平!」


辻谷君の声に、心臓が飛び出しそうになるくらい高鳴る。


近くに航平君がいる。


でも、その方向は向けない。


まともに顔を見れない。


凜ちゃんが


「あら、安藤君に辻谷君、それに天野君、おはよう」


気さくに声をかけている。


「おはよ…」


少し気だるような天野君。


「おはよ!」


と、元気な辻谷君。


「…おはよう」


元気のない航平君。


私も挨拶しなきゃ。


グッと拳を握りしめて


「おはよう」


笑顔を作って挨拶をする。


その瞬間、航平君と目が合った。


キレイで真っ直ぐな眼差し。


見ているだけで、蕩けてしまいそうな…


なんだか怖くて…


目を逸らしてしまった。


「おはよう、佐藤さん」


辻谷君が、私の肩をポンっと叩かれ驚く。


「こら!私の美奈に気安く触るな!」


凜ちゃんが、辻谷君の手を跳ね除ける。


「おぉ…いた…」


辻谷君が自分の手を擦っている。


「まったく、油断も隙もあったもんじゃないわ」


怒っている様子の凜ちゃん。


「ありがと」


凜ちゃんにお礼。


「どういたしまして」


凜ちゃんは、微妙な笑い方をしていた。


校門の所では、楓ちゃん達が挨拶運動をしている。


…生徒会の面々でね。


その中には、当然田畑君もいて


「おはようございまーす、会長」


と、黄色い声に近い感じで挨拶をする女子生徒。


「はーい、おはよう」


なんて、軽い感じで田畑君は、挨拶を返している。


「会長!真面目にやってください!」


その隣で楓ちゃんが、不機嫌に言う。


何でか、笑えてしまう。


…ごめんね、楓ちゃん。


「おはよう、楓ちゃん。また後でね」


私が、そう言うと


「おはよ、美奈、凛。また後でね」


楓ちゃんは笑顔で返してくれた。


友達の笑顔って、やっぱりいいな。


私は、2人に、きちんと笑顔を向けているのかな?


心配ばかりかけてないかな?


いけない…


また、ネガティブな方向に行っている。


これじゃダメだよね。


もう少し、物事を楽しく考えなきゃ。


明るい女の子になれたなら…


航平君に似合う女の子になれたら…


航平君、告白しても…いいですか?


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