『航平-理性のブレーキ』

その欲望が、俺の中で次第に大きくなっていく。


もうすぐ花火があがる時間。


去年、潤達と行った穴場の高台へと向かう。


そこは、恋人たちの憩いの場所だった。


だから…


佐藤と一緒に行きたかった。


ゆっくりと高台に向かうと、そこにはカップルが仲睦まじげにいる。


肩を寄せ合って、甘い言葉を囁き合っているのだろうか。


雰囲気で分かる。


俺は、佐藤を見晴らしのいい場所へ連れていく。


ここなら、キレイに見えるだろう。


花火が上がるのを待っていたら、急に佐藤が繋いだ手を強く握ってきた。


この場の雰囲気に耐えられないのかもな。


佐藤は、そう…真っ白な女の子だから。



【大丈夫】



そう念じながら、その手を握り返した。


佐藤の表情が少し切なそうになる。


その時




【ドォーーーン!】




花火があがった。


色とりどりの花火を見ていると


「キレイ」


佐藤の呟きが聞こえる。


俺は、チラリと佐藤を見る。


佐藤が見ているのは花火じゃなくて…俺?


その表情…視線は、艶めかしくて、俺に見惚れているようだ。


「佐藤の方がキレイだよ」


俺がそう言うと、佐藤は恥ずかしそうに視線を逸らす。


ダメだ…


もう限界が近づいている。


俺の理性が、音を立てて崩れてしまう。


その恥ずかしそうな表情。


色っぽいうなじ。


そして、透き通るような白い肌。


その全てが、俺の中にある理性の箍を壊していく。


「すげぇ…そそる…」


思わず出てしまった言葉。


その意味に気付いた佐藤は、顔を真っ赤にして俯く。


なんて可愛らしいんだ。


佐藤を向かい合わせになるように体を動かす。


恥ずかしいからだろう、佐藤は俯いて唇を噛んだまましている。


「ダメだよ…俺を見て…」


それでも、顔を上げない。


瞼も開かない。


「佐藤…俺を見て…」


そう言うと、やっと顔を上げて、ゆっくりと瞳を開く。


澄んだ瞳に映っているのは俺。


俺、こんなエロい顔をしているんだ…


ダメだ…もう…


「佐藤…すごく、キレイだ…」


そう言うと、唇を合わせる。


4度目のキス。


前回のように舌を絡ませる。


唇を離して、佐藤を見る。


トロン…とした瞳で、俺を見つめている。


唇は少し開いて、まるでもっと欲しがっているよう。


ごめん…佐藤…


俺…もう…




…我慢できない




理性の最後の砦が、音を立てて崩れていく音がした。


俺の唇が、佐藤の首筋を這っている。


「ん…」


微かに佐藤の声が聞こえる。


体中の血液が熱い。


心臓は、爆発寸前で


知らない間に、互いの指を絡ませている。


唇が鎖骨に移る。


「あ…」


キレイな声と、体がビクンっと動く。


ダメだ…


止まらない…


絡めていた指を解いて、俺の手がゆっくりと動く。


手首…腕…そして…


胸の膨らみに触れる寸前…


俺の脳裏に浮かんだのは…


泣いている佐藤の顔だった。


グッと拳を握りしめて、鎖骨から唇を離す。


佐藤は、澄んだ瞳のまま、俺を見つめ、震えている。


思わず抱きしめてしまった。


強く…


強く抱きしめた。


「あ…安藤君?」


戸惑う佐藤の声。


「もう少し…このままでいて」




【俺の理性の砦が回復するまで】




花火の音が止んだ。


俺は、佐藤から体を離す。


…その切なそうな表情は止めてくれよ。


期待しちまうだろ?


現実は、甘くないと分かっている俺だから。


「家まで…送る」


それだけ言って、佐藤の手を引く。


佐藤の顔が見れない。


怖い…


彼女の瞳が傷ついていると分かっているから。


そんな彼女を見るのは怖かった。


彼女の家の前で


「また…明日…」


俺がそう言うと


「また…明日…」


小さな声で返してくれた。


「送ってくれてありがとう」


そう言って微笑んでから、彼女は家の中に消えていった。


手を伸ばしても、届かないんだ。


そんな現実を突き付けられた。


伸ばした手を引いてから、自分の家に向かう。


あのキレイなうなじ


澄んだ瞳


柔らかい唇


透き通るような白い肌


華奢な身体


その一つ一つを思い出しながら…

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