『航平-揺さぶられるキモチ』
「航平君、花火大会行こうよ」
潤の引っかかる言い方。
こういう言い方している時は、何かあるんだよな…
「…俺、パス」
小さく答える。
最近、俺が凹んでいるって分かっているだろ?
原因は、佐藤。
いや、そもそも悪いのは俺。
俺が、アイツを好きなばかりに…
佐藤は、ヒドイ目に遭っている。
後遺症とか傷が残らなかったとはいえ、怪我まで負わせた。
『いいか…うちの娘には近づくなよ』
佐藤の親父さんの言葉が胸に突き刺さる。
そうだ…
俺が近づかなければ
佐藤は傷つかない。
だから、佐藤と接点を持たないように気をつけてきた。
でも
いつも…
目で追うのは彼女ばかりで…
佐藤も心なしか元気がない。
『どうした?』
何度も声を掛けたい気持ちを抑える。
ダメだ…
もう…佐藤を巻き込みたくない。
傷つけたくない。
だけど…
そう思っていても
俺の体は、彼女を求めている。
抱きしめて、守ってやりたい。
だけど、俺にそんな資格あるのか?
…ないよな
いつも頭に浮かぶのは、佐藤の涙。
俺は、泣かせてばかりだから。
本当は…
笑わせたいのに
佐藤の笑顔を見たいのに…
そんな俺のキモチを知っているくせに
「じゃあ、4時半に航平君の家に集合」
なんて勝手に決めているヤツがいる。
…潤だ。
「だから、俺行かないって」
俺が突っぱねると、潤はニヤニヤ笑いながら
「佐藤も、花火大会行くんだってさ。もしかしたら、偶然、浴衣姿が見れるかもしれないのにな…」
俺の耳に囁く。
悪魔の囁きってやつか?
…佐藤の浴衣姿
見たい
遠くからでもいいから
見たい
そして、次の瞬間
遠くで佐藤が笑っていた。
あぁ、この笑顔が見たかった。
佐藤には、笑顔が似合っている。
「じゃ、行くって事で」
潤が勝手に決めている。
「おい…!」
俺の言葉を聞かずに、潤は教室から出て行った。
ため息をついてから、俺も教室から出ていく。
笑った佐藤を見て
≪行くのも悪くない≫
なんて思っていた。
あ…見つけたら、俺、ストーキングするかもしれないな。
たぶん…
きっと…
ヤバい人間の仲間入りになるかもしれない。
それだけは、避けないとな。
自宅に帰ってから、ラフなスタイルに着替える。
母さんは、仕事だ。
そういや最近、佐藤の母親と頻繁に連絡取っているらしいな。
佐藤を、すっかり気に入って。
母親二人で、結婚式の事まで相談している。
ありえないって。
佐藤は…俺の事…軽い男だって思っている。
そうなったのは、自分のせいだし。
俺もバカだよな。
いくら興味を引きたいからって
プレイボーイ演じるなんて。
潤達も、
『お前、バカだろ?』
と、繰り返し言われた。
…バカだよな。
とにかく、そんな事はありえないって何度も言っているのに…
『私、美奈ちゃんみたいな素直で可愛い娘が欲しいんだもん』
と、言い切る。
ダメだ…この母親は
何言っても聞きやしない。
何も言うまい。
さて、もうすぐ4時半。
アイツらが来る頃だ。
シャツを着てから、財布やハンカチをポケットに放り込む。
玄関を出ると、潤と秀人と良太がいた。
「時間通りだね」
良太がニコニコしながら言う。
絶対、何かある…
コイツとは、高校からの友達だけど、何となく分かる。
潤や秀人の顔を見ても、似たような印象を受ける。
「さー可愛い女の子の待つ、花火大会へ!」
嬉しそうに先を歩く良太。
おいおい、もしかしてナンパでもする気か?
そりゃ、お前は、それなりにイイ男だけどさ。
俺は、今、そんな気分じゃねぇよ。
ま、いいや…
コイツらは好きにさせとこう。
俺は…佐藤を探す。
その浴衣姿を一目でも…
なんて思いながら歩いている。
ん?
何で駅の方角に向かっているんだ?
会場は別の方向なのに…
その答えは、すぐに分かった。
「やっほー」
良太が手を上げている。
もしかして、誰かと待ち合わせかよ…
ったく、何を考えているんだか。
女の子と待ち合わせだったのかよ。
本当に、何を考えているのやら。
「馬子にも衣装って言うなよ」
聞き覚えのある声。
まさか…
女の子3人組を見る。
津川と坂本が良太達と何か話している。
そして、その横で俯き加減で立っているのは、顔は見えなくても分かる。
佐藤…なのか?
逸る気持ちを抑えながら近づく。
いつもは下している髪もキレイにアップして、見えるうなじが、色っぽい。
浴衣も大人っぽくて…
それに、薄く施されているナチュラルメイク
…俺の心臓、もつかな?
それ位に、心臓が早鐘を打っている。
「な?航平」
潤に言われたけど、何の事だか分からない。
「あ…うん…」
佐藤に見とれていた俺は、曖昧な返事しか出来なかった。
その瞬間、佐藤の表情が少し暗くなった。
どうかしたのか?
その後、花火大会会場に向かう。
津川に手を引かれて歩く佐藤から目を離せないでいた。
潤が俺の肩を叩く。
「うまくやれよ」
小さく囁いた。
「え?」
と、振り向いた時には、潤達はいない。
そして
「きゃーたこ焼き!」
と津川が駆けていく。
おいおい、友達は?
佐藤も慌てて追おうとしたけど、転びそうになる。
危ない!
そう思った瞬間、俺は佐藤の腕を掴んでいた。
華奢で細い腕。
「あ、ありがとう」
俺と目を合わせないで言う。
なんだか顔が赤い。
「…佐藤は、危なすぎ」
そう言うと、俺を見て更に赤くなる。
なるほどな…
あいつらの企みが、何となく分かった。
「あいつら…」
呟いた俺。
「ご、ごめんなさい」
泣きそうな声で佐藤が言う。
「え?」
その意味が分からない。
「私のせいでみんなと…」
あー、みんなとハグれたの自分のせいだって思っているのか?
「…別に、佐藤のせいじゃないよ」
佐藤、可愛過ぎだって。
あいつらは、わざと俺達二人にしたんだから。
何の意味があるのか分からないけど、無意味なのにな。
つか、津川と坂本をよく騙せて連れ出したよな。
策士・良太…恐るべし!!
「でも…」
そんな顔するなよ…
可愛過ぎて…
キスしたくなる。
「一緒に探そう」
君に想いを伝える事は出来ない…
だから…
少しでも、君の時間を
俺に頂戴。
あと…悪友たちの好意も、受け取らないとな
「はい」
俺は手を差し伸べる。
「え?」
彼女は、戸惑っている。
「はぐれるといけないから」
そう言うと、迷いながらその手を取ってくれた。
2人で歩いた出店。
射的で、小さな人形を、ジッと見つめていたから、それを当てた。
手渡した時の笑顔を見た瞬間に、幸せをかみしめたんだ。
2人で、わたあめを頬張る。
目が合った瞬間、赤くなった。
その行動の一つ一つが
俺の心を揺さぶる。
もう…ヤバいって…
俺の中にある、いろんな制御装置が壊れていく。
その仕草の一つ一つが
俺の中の本能を揺さぶる。
その済んだ瞳も
その柔らかい唇も
キレイな髪も
透き通るような白い肌も
すべて
すべて
俺のモノにしたい。
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