『アガルハナビ』
「こっち…」
航平君に連れられてやってきたのは、会場から少し離れた高台。
「ここ、穴場なんだ。もしかしら、あいつらここに行っているかもしれない」
私の手を引いて、連れてきてくれた。
歩きにくい私に合わせて、ゆっくりと
「ごめんね。私、トロイから」
そう言って謝ると
「佐藤は、謝ってばかりだな」
航平君は笑って言う。
だから、それは殺人級だってば!!
高台に上ると、そこにはまばらの人が…
やっぱり、穴場だけあって人は少ないけど…
でも…
なんでこう…
アベックばかりなの!?
何、このイチャイチャした雰囲気…
居たたまれないんですけど…
半泣き状態の私。
繋がれたままの手。
私の心臓…パンクしちゃいそうだよ。
だって、航平君の横顔…
とてもキレイで
カッコよくて
しっかり握られた手も
すごく熱くて
鼓動は、ほんと、航平君に聞こえるんじゃないかってくらいで…
どうしよう…
夢なら醒めて欲しくない…
心の底から、そう願った。
心なしか繋がった手に力が籠る。
航平君が私を驚きながら見ている。
そして、航平君も握り返してくれた。
ダメよ…
期待したら…ダメ…
それは、航平君に迷惑だから…
だから…
【ドォーン!!】
花火の音が響きだした。
色とりどりの花火が打ち上げられていく。
近くでは、口づけをかわす恋人たちや甘い時間を過ごす恋人達。
どうしよう…
私…今…航平君と…
キスしたくなっている。
花火を見つめる航平君の横顔。
何度見てもキレイだ。
「…キレイ」
航平君を見ながら言う。
その言葉で、航平君が私を見る。
航平君は、微笑みながら
「佐藤の方がキレイだよ」
甘く優しい声がする。
「え?」
私が驚いていると
「すげぇ…そそる…」
航平君の言葉に…たぶん、言われた事ない単語に首を傾げる。
その意味を理解するまで、少しの時間がかかる。
そして、その意味を理解した瞬間
私の顔が、真っ赤になった。
恥かしくて
すごく恥ずかしくて
だから、目を瞑って俯く。
航平君は、私を向い合せになるようにして
「ダメだよ…俺を見て…」
甘い声がした。
…見れない。
恥かしくて、顔を上げられない。
「佐藤…俺を見て…」
航平君の言葉に、ゆっくりと瞼を開いて顔を上げる。
すると、そこには航平君の顔がある。
「佐藤、すごく、キレイだ」
それだけ言うと、私の唇に自分の唇を合わせてくる。
花火の音が遠くなる。
聞こえるのは、航平君の息遣い
優しい眼差し
そして、口の中に入ってくる…舌。
それが重なり合い、貪り合うように絡んでいる。
…ダメ
何、この感覚
私、どうなっているの?
分からない
頭が真っ白になって
何も考えれなくて
唇が離れる。
私、どんな顔をしている?
分からない
航平君は、私の顔をジッと見る。
そして、首筋に唇を滑らせた。
「ん…」
ゾクっとする感覚。
擽られた時とは違う。
全身が…何か…変だ…
神林君にされた時は不快でしかなかったのに…
航平君からされたら、どうしてこんなに心地いいの?
唇は、鎖骨に到達する。
「あ…」
この声は、私じゃないみたい。
こんな声を出したことはない。
無意識に両手が絡まっていたのに、それを外す。
ゆっくりと腕を上っていく。
この先にあるのは…
だけど、航平君の動きが止まった。
グッと拳を握りしめてから
唇が鎖骨から離れる。
そして、私を強く抱きしめた。
「あ…安藤君?」
私が目を丸くしていると
「もう少し、このままでいて…」
哀願するような航平君の声。
「そうしないと…」
小さく呟く。
『俺のブレーキが止まらなくなる』
と…
ブレーキ?
どういう事?
いや、そんな事より…
今、何した?
え?
え?
ええ?
キスしてそれから…
えっと、首筋を…
そして鎖骨…
その後航平君の手が動いて…
…
…
…
…そうだよね?
よくよく考えてみると、そういう事になるよね?
考えれば考えるほど
恥かしくなったくる。
航平君が止めなかったら…
私は、それを受け入れていた。
そうなってもいいって思っていた。
でも、航平君は止めた。
それは…私が、そういう対象にはならないから?
…そういう事だよね?
なんだ…ちょっとだけ期待しちゃった。
あっちじゃなくて…
航平君が、私を想ってくれているんじゃないかって
そんな事を考えていた。
でも、それは勘違いで…
私に魅力がないのは当たり前で…
あ…何だか悲しくなってきた。
でも、泣くな!
やがて、花火の音が止まる。
航平君は、体を離して。
「家に…送るよ…」
そう言ってくれた。
航平君に手を引かれて、歩いた道。
花火大会の余韻に浸る周囲なのに…
私達だけが別世界にいるみたい…
やがて、私の家の前に着いた。
「また…明日…」
航平君の言葉に
「また…明日…」
そう言ってから
「送ってくれてありがとう」
精一杯の笑顔で言った。
家の中に入ると
「お帰り」
機嫌のいいお母さんの声。
すぐに洗面台に行く、お化粧を落とす。
キレイに落ちたお化粧。
鏡に映るリアルな私。
航平君の唇の触れた首筋や鎖骨を指で触れる。
初めての感覚に、産毛が逆立つ。
思い出すだけで、鼓動が高鳴る。
そして、同時に悲しくなった。
自分が、そういう…恋愛対象ではないと思い知らされた気がした。
「美奈?」
お母さんが心配そうに声を掛ける。
「もう疲れたから…寝る」
そう言って自室へと向かう。
ぐちゃぐちゃに脱いだ浴衣を部屋に散乱させたまま…
深い眠りについた。
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