『謝罪』
そう思っていても、実際に私にはそんな勇気はない。
始業式の日は、あっという間に過ぎていく。
全校集会、掃除、ホームルーム。
ホームルームで、1学期に事件を起こした神林君と平沢さんの事は触れなかった。
知りたくもない。
そして…
『好きです!』
なんて、声が聞こえて気が重くなる。
だって、顔を真っ赤にして女の子が、航平君に告白しているんだもん。
この子とも付き合うのかな?
そう思うと悲しくなる。
「ごめん…俺、好きなヤツがいるんだ」
航平君は、彼女に申し訳なさそうに断っている。
え…?
航平君が…断った?
何で?
来る者拒まず…だったはずじゃ?
でも、私以上に驚いて、ショックを受けているのは彼女。
感情が無くても、付き合ってもらえる…そう思っていたはずだから。
キュッと唇を結んで、彼女は航平君の前から去っていく。
どうしたの?
何があったの?
「よーよー、航平。断ったねぇ」
航平君の方に手を回して、軽い感じで絡んでくる田畑君。
航平君は、その手を振り払い
「うるせ。俺はもう好きなヤツとしか…付き合わないよ」
重々しく言った後、バチっと私と目が合った。
今のどういう事?
何で…私の方を見たの?
偶然なの?
私…勘違いしちゃうよ。
きゅーっと胸が痛い。
その場から立ち去りたい。
でも、現実は甘くない。
大体、私は彼女達みたいに告白する勇気なんてない。
自分の情けなさぶりを、改めて実感。
悲しすぎる…
さて、そろそろ帰り準備して帰ろうかな…
そう思って立ち上がった。
「ねぇ…」
私に話しかけてきた声に、ビクッと肩を震わせる。
まさか…
そう思いながら振り向くと
深田さんと前田さんがいた。
「何ですか?」
ビクビクしながら答えると
「少し…いい?」
前とは違う言葉遣いに、私は黙って頷く。
3人で向かったのは屋上。
「あの…何か…?」
思い切って、私が切り出すと
「ごめんね」
深田さんは、深々と頭を下げた。
「え?」
私は戸惑ってしまう。
「今まで、いっぱい、嫌な事してごめんね」
そう言う彼女、私はどうしていいか戸惑う。
「終業式の後の事も、元を正せば、たぶん私のせい…」
彼女は、苦しそうに言う。
その後、頭を上げて
「私ね、あなたに嫉妬していたの」
彼女の言葉に、意味が分からなくなる。
「可愛くて、大人しくて、そして優しい。そして、アイツに想われているあなたが…羨ましかったんだ」
その言葉は、ちょっと…というよりかなり信じられない。
可愛い?
優しい?
想われているって誰に?
もしかして、凜ちゃんや楓ちゃん?
そんな私の様子を、深田さんは怪訝そうに見て
「もしかして…気付いていない?」
そう言う。
首を傾げている私に、深田さんはいきなり笑い出す。
え?
何?
何か可笑しい事した?
「あーごめんなさい。笑うつもりはなかったんだけど…」
まだ笑いを堪えている。
「…でも、アイツ、ちょっと可哀想」
深田さんは、同意を求めるように前田さんを見る。
前田さんは苦笑しながら
「そうだね」
そう答える。
「ねぇ…航平には告白するの?」
ストレートな質問に、私の頬の温度が上昇する。
「あの…その…」
言い訳が浮かばす、頭はパニックに陥っている。
「見ていたら分かるわよ。特に、航平の事ならね」
深田さんは、悲しげに言う。
本当に、航平君が好きなんだね。
「あなたなら、きっと上手くいくわよ」
深田さんは笑顔で言う。
「用はそれだけ。じゃあね」
そう言ってから、2人は屋上から去る。
取り残された私。
さっきの、【アイツ】って誰の事だろう?
誰も思いつかない。
うーん、考えても仕方ないか。
とりあえず、凜ちゃんや楓ちゃんに相談してみよう。
そう思って、私も屋上から出る。
階段を降りていく。
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