『5時限目の一幕→二度目のキス』
5時限目の体育は、お休み。
この左手じゃね。
当たり前だよね。
男子は、グラウンドでサッカー。
女子は、体育館でバレー。
凛ちゃん、張り切っている。
運動神経いいし、勝負事大好きだしね。
私は、クスクス笑ってしまう。
ちょっと、キモいかも。
「おりゃあ!」
凛ちゃんのアタックを
「なんの!」
楓ちゃんが返している。
結構、見ごたえのある試合になっていた。
私、休みでよかった。
私みたいなのが入っていたら、迷惑かけるだろうし。
そういや、平沢さん達は…
端の方で、試合している子達を見下すように見ながら会話している。
航平君の前では、絶対に見せない顔。
これが彼女の本性なのかもね。
目を合わせたら何を言われるか分からないから、見ないようにしていた。
あ…ハンカチがない。
そういや、さっき机に…
体育館って、熱が籠るから意外と暑いんだよね。
仕方ない…
私は先生に
「すみません。教室にハンカチ忘れたので、取りに行っていいですか?」
と聞く。
「今日は暑いから、仕方ないわね」
先生が許可してくれたから、私は急いで教室に向かった。
誰もいない教室か…
何だかドキドキする。
【ガラリ】
ドアを開けて
【どくん!】
胸が鳴る。
航平君が、窓辺の席に座ったまま外を見ていた。
誰かが入ってきたと気付いたのか、こっちを見る。
「あ…あの…」
私は、声を上擦らせながら声をかける。
「何?」
少し低い声。
「体育は?」
私の問いかけに
「休んだ。ダルイから」
短く答えた。
「そうなんだ」
私は返事をして、自分の机の上にあるハンカチを手に取る。
「じゃあ」
それだけ言って教室から出て行こうとすると
「なぁ佐藤」
航平君が声を掛けてくる。
「何?」
昨日の事があったから、航平君をまともに見れないよ。
「…昨日の事」
航平君が、その言葉を口にした瞬間、私は顔が赤くなった。
「き、気にしないで。私も気にしないから」
本当は、思いっきり気にしているくせに
精一杯の強がりを言う。
「ふうん」
航平君は、私に近づく。
「気にしてないから、もう一回する?」
その言葉に、心臓が飛び出て、どっかに飛んで行くかと思った。
何…それ…
何なのそれ…
私は、知らないうちに泣いていた。
何よそれ…
キスって、そんなに軽いもん?
「佐藤?」
後ろからの航平君の声。
涙は止まらない。
「…ごめん」
切なそうな航平君の声。
それでも、涙が止まらない。
「キスって、そんなに軽いモノ?」
私は、小さく言う。
「え?」
驚いている航平君。
「キスって、安藤君に軽いモノかもしれない。でも…私には大切なモノなんだよ」
そう言って振り向いた。
「だって、初めてだったんだよ」
それを言ったら、また涙が溢れてきた。
「ごめん…」
航平君は、私から目を逸らして
「でも、俺も初めてだったんだ」
その言葉で、私の涙は止まった。
「え?」
驚く私に
「俺だって、初めてだったんだ」
照れくさそうに言う航平君。
「うそ…だって…いっぱい彼女…」
「あいつらとは、何もしてないよ」
少しの沈黙。
「でも…じゃあ…どうして?」
混乱する頭の中。
ぐるぐる回って何も考えられない。
「だって…」
そう言って、航平君は私に近寄る。
「佐藤は、すげぇ可愛いから」
そう言って、私の頬に手を添える。
え?
え?
ええ?
また可愛いって言いました?
そんな事を考えている余裕もなく。
キスを交わしていた
柔らかい唇
少し震えた唇
吐息の音
私を見つめる瞳
すべてが私を麻痺していく…
唇を離してから
「佐藤…好きだ」
耳元で囁かれた言葉に、とろけていきそうになる。
"私も大好きだよ"
そう答えたかった…
でも…
私は、航平君の胸を押しのけて
「私なんかじゃ…ダメ」
小さく呟く。
「え?」
「こんな可愛くなくて、愚図でノロマでバカな私なんか…」
そう言ってから、私は教室を飛び出していった。
バカバカバカバカ!!!
なんで、素直に自分のキモチ言わないの?
好きなのに…
好きなのに…
でも、私なんか…
可愛くもなければ、かっこよくもない。
周りの足を引っ張って、迷惑かけてばかりで
どうしようもないバカ。
そんな私が、航平君と釣り合う訳がない。
それに、航平君の言葉を鵜呑みしたらいけない。
彼は、女の子の扱いに慣れている。
きっと…
「冗談だよ」
と、小馬鹿にしたように笑うに決まっている。
ただ、気まぐれで言っただけ。
私の反応が面白くて、見たくて言っただけ。
そんな悲しいことを考えなら走り続けた。
結局、その後
ずっと、凛ちゃんと楓ちゃんと離れないで、放課後も逃げるように家に帰った。
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