『航平ー秘められたオモイ』

また、逃げられた。


ほんと、俺ってダメだな。


泣かせてばかり。


あの時、倉庫の中で、瞳を潤ませた彼女を見た瞬間に、心臓が破裂しそうになった。


平沢を上手く交わさないといけない時なのに。


邪な事を考えていた俺。


あんな顔されたら、誰だって…


抑えきれねぇっての。


思わず


『可愛い』


だなんて、歯の浮くような事を口走って。


…キスをした。


初めてのキス。


何人かの女と付き合ってきたけど、どんなに迫られても、やらなかった行為。


俺にとっては、あいつらと付き合ったのは…注目されたかっただけ。


【プレイボーイ】


て騒がられたら、彼女の気を引けるって。


最低な男だな…


親父の事いえねぇよ。


でも、最初のキスも2回目のキスも


結局、泣かせちまった。


傷つけちまった。


どうして俺って、こうなんだ?


不器用な俺は、傷つける事しか出来ない。


アイツらと変わらない。


彼女をイジめていたガキ大将どもと。


守るどころか傷つける事しか出来ない。


挙句に、コクってさ。


どうにかしているっての。


…考えるだけで腹が立つ。


何で、コクっちまったんだ俺は。


そんな事しても、困らせるだけじゃねぇか。


そうしないと…


誰かに取られる気がしたんだ。


佐藤を見ていると、衝動が抑えられなくなる。


俺だけを見てほしいって衝動に駆られてしまう。


佐藤を狙っているヤツはいるの知っているし。


アイツは、自分の事可愛くないみたいに思っているみたいだけど、十分可愛いよ。


あの時、入学式の日に。


桜の木の下で散る花弁を見ていた彼女の笑顔は、何よりも輝いていた。


誰よりも優しいから、何も言えない。


相手を傷つけるのが怖くて、何も言えない。


だから、自分が傷ついてばかりだ。


いつも津川が庇っていたりしていたけど。


本当は、俺が守ってやりたかった。


佐藤は、いつも津川といてばかり。


片時も離れやしない。


だから、バカな俺は彼女の気を引く為に考えたんだ。


【プレイボーイ】


っていう仮面を。


それが、逆効果だとは知らないでさ。


津川は、俺に侮蔑の視線を送ってくる。


…バカだよな


逆に嫌われちまうなんて。


おまけに相手の同意もなくキスしちまうんだから。


俺って最低な男だ。


てか、なんで抵抗しねぇんだよ。


期待しちまうだろ?


あんな切なそうな顔を見せないでくれよ。


抱きしめたくなるだろ?


でも彼女は逃げて行った。


明確な拒絶というヤツだ。


自分が俺に似合わないって言うけど


俺の方が佐藤に似合わない男だよ。


佐藤は、可愛いいよ…


マジで…


俺の周りにいる女達は、腹黒い連中ばっかだ。


でも、佐藤は、真っ白な花のように可憐でキレイだ。


だから、守ってやりたいんだよ。


授業が終わっても、逃げるように帰って行った。


怒ってんだろうな、俺の事。


また嫌われちまったよ。


さて、俺も帰ろうか。


平沢達が来る前に…


今日は、担任に呼び出されているみてぇだから、早めに帰らないとな。


そうして、俺は学校の校門に差し掛かる。


「航平君」


俺に話しかけてきたのは、優奈の友達、小林。


優奈と一緒に、佐藤をイジめていたヤツ。


だが、こいつらが佐藤に、ちょっかい出したのは、たぶん俺のせいだから。


優奈とは、仲がいいからな。


何かあったのか?


「何?」


足を止めて、小林を見る。


小林は、笑みを浮かべて


「ちょっと話をしない?」


笑顔のままで言った。



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