『打ち砕かれた幻想』

次の日―


前日と同様に、どうしていいのか分からないまま、学校への道を歩いている。


左には凛ちゃん。


右には楓ちゃん。


二人に心配かけたくないから、明るく話をしている。


「で、それから会長は?」


私の問いに


「それがさぁ、いつの間にかサボりだよ、まったく」


楓ちゃんは、怒りながら言う。


「あんな奴、どうして生徒会長にしたのよ!!」


かなりご不満のようだ。


「あはは…」


笑いながらも、私の心臓はバクバク言っている。


航平君から告白された。


…たぶん。


冗談じゃないかって思っていたけど


あの切なそうな顔と震えていた唇。


それを思い出すと、あの言葉が嘘ではないって気がする。


まだ、夢見たんだ私。


バカみたいだな。


そんな訳ないじゃん。


笑える。


何度も言い聞かせても、あの言葉が蘇る。


『佐藤…好きだ』


その言葉が、何度も何度も脳内でリプレイする。


どうにかなっちゃうかも。


ちゃんと、返事しないといけないかな?


なんて、考えている私。


ほんと、つくづくバカだよね。


「あ…安藤」


凛ちゃんの声に、心臓が飛び出るかと思った。


「あぁあ、朝から…」


嫌悪の混じった声。


そして、その方向を見た瞬間-




世界が終わった気がした





目の前を歩いている航平君。


だけど、一人じゃない。


その腕に自分の腕を絡めて歩いているのは、小林さん。


え…?


何…?


これは、どういう事?


二人は、仲睦まじく校門をくぐる。


「今度は、幼馴染みの親友?どんだけよ」


凛ちゃんが吐き捨ているように言うと


「まったく、見境ないよね」


楓ちゃんも同意する。


そして、やっと動き出す私の思考。


…そっか


そういう事か


やっぱり、嘘だったんだね。


あの告白も


震える唇も


切ない眼差しも


柔らかい吐息も


…【初めてのキス】だって言った事も


すべて、嘘だったんだね。


そっか…


やっぱりそうか


航平君みたいなカッコいい男の子が、私みたいな地味で可愛くない女の子を好きになる訳ないじゃん。


あはは…


何を期待していたの?


分かっていた事じゃない。


ただ、バカな私をからかっただけだって。


分かっていたのに…


期待していた私がいた。


涙が出そう…


でも、凛ちゃんや楓ちゃんに迷惑かけたくない。


だから、堪えるしかない。


「美奈?」


凛ちゃんが不思議そうに顔を覗いてくる。


私は、苦笑しながら


「あそこまで、お熱いと迷惑だよね」


そう笑って言う。


私の言葉に二人は、びっくりしていたけど


「そうだよね」


楓ちゃんが言った。


「見境なさすぎ」


凛ちゃんが厳しい口調で言う。


…気付かれないようにしなきゃ。


…忘れなきゃ。


私は、言い聞かせた。


昨日と一昨日の事は、夢だったんだって。


私のただの幻想だったんだって。


涙が出そうになったけど、堪えて笑う。


大丈夫…


こんなの慣れている…


ヒドイ事言われたり、されたりするの…


慣れてる…


大丈夫だよ…


大丈夫…



でも、いくら言い聞かせても、胸に刺さった棘は、消えてはくれない。



航平君の事が好きだから


どうしようもなく、好きだから


でも、もう届かないんだって思う


航平君と小林さんの仲睦まじさを見ると


胸が苦しいくらいに


思い知らされた。


航平君は、最初から私の手の届かない場所にいたって事。


痛いくらいに


思い知らされた。


教室の中では、べったりとくっついている二人を平沢さんが、恐ろしい顔で睨んでいた。


「…ねぇ航平君」


怒りを抑えて彼女は言う。


「ん?」


航平君は、興味なさげに答える。


「どうして、その子と付き合っているの?」


そう言って小林さんを指す。


航平君が答えないでいると


「航平君は、私が好きだからよ」


小林さんは、そう答えた。


「本当なの?」


今にも食って掛かりそうな彼女の勢い。


「…あぁ」


航平君は、そう答えた。


【…ズシン】


胸に、すごい重みがかかったようだ。


やっぱり、嘘だったんだって。


思い知らされる度に、私はこうなるのだろうか?

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