『倉庫での一幕』

…はぁ


何か、私、みんなに迷惑かけてばかり…


ほんと、ダメだよね。


ため息をついてから、外を見る。


「いい天気…」


夏が近づいてきたからか、太陽はまだ高い。


放課後…


生徒の大半が校舎にいない。


職員室の先生達と、文化部の人達、それに楓ちゃん達生徒会しか、校舎にはいない。


文化部の部活棟は、向こうにある。


おそらく、校舎には、きっと…


誰もいない。


私がいる、2階フロアには…


開放的な気分になった。


そして、思いっきり体を伸ばして立ったままの大きな大の字。


「おりゃあ!」


声を上げる。


あぁ、なんて気持ちいいんだ!!


誰もいない校舎で、一人で盛り上がっていた私。


「何してんの?」


背後からの声で


「ひゃ!!」


何とも奇妙な声を上げる


だ、だ、だ…


誰かいたぁぁぁぁぁぁ!!


驚きの余り、固まる…


誰、誰なの?


ゆっくり振り返って…


さらに、ぎゃあぁぁぁぁぁ!!


ウザったそうにそこにいたのは航平君。


帰ったんじゃないのぉ??


いつ、学校に戻ってきたの??


てか、何でここにいるのぉぉぉ??


そんなのは、どうでもいい


いいよぉ…


こんな所見られたのが恥ずかしいよぉぉ


顔が熱い…熱すぎる。


目も思考も何もかもクルクル回っていく。


どうしよう


どうしよう


どうしよう


航平君に、変な奴って思われているよー


テンパる私。


航平君は、私を見つめて


「佐藤って、こんなキャラだったんだ」


そう言ってニヤリと笑う。


何?変人だと思われた?


あーん、もう!!


恥ずかしい!!


明日から学校来れなくなっちゃうよぉ


「あのね…あのね…」


私は、クルクルとテンパっている頭で、どうにか言い訳を思いつこうとしていた。


だけど、航平君は、次の瞬間に顔を歪めて


私の右手を取ってから、近くの倉庫らしき部屋に入り込んだ。


え?え?何?どうしたの?


私は、テンパる頭で考える。


「あの…」


航平君に声を掛けようとしたら


「シッ…」


航平君が、人差し指を自分の唇に当てる。


…え?すごく色っぽく感じる


きゃあぁぁぁ私、何を考えている訳ぇ?


「…航平くぅん」


遠くから平沢さんの声がする。


しかも、段々と近づいて来ているみたいなんですど。


思わず、自分の口を塞ぐけど。


両手でやったから、左手に激痛。


声を上げたかったけど、我慢…


堪えるんだ私!!


堪えきったけれど、目は涙目になった。


航平君は、私をジッと見ている。


え?何?


私、変?


さっきの事を見られた事と言い、ほんと航平君に恥ずかしい所ばかり…


…自己嫌悪。


「航平くぅん、どこぉ?」


航平君を呼ぶ平沢さんの声。


私は、恥ずかしい気持ちを抑えて、航平君をチラリと見る。


息を飲んで廊下の様子を伺っている。


かっこいい…


なんなんだ?私は?


さっきから、何なんだ?


そんな、少し邪な私を嫌悪しながら、息を飲んで、彼女が通り過ぎるのを待つ。


息を顰めていると、向こう側に向かい


「3階?」


と言いながら、階段を上る音。


ほぉっと息をつく。


良かった…


何事もなく通り過ぎてくれた。


そして私は気付いてしまう。


航平君と距離が近すぎる事に…


「あ…あ…ごめんなさい!!」


そう言って離れようとするけど


【ガッ…ン】


背中に何かが当たる。


へ?


振り向いた瞬間、ハシゴが目の前にまで迫ってきていた。


どうしよ…


だけど、固まって動けない…


落ちてくる!!


咄嗟に顔を庇う。


こんな平凡な顔でも、親からもらった顔だから…


あれ?でも痛みが来ない?


もしかして、痛みを感じないまま、私…


「佐藤、ドジ過ぎ」


航平君の声。


ゆっくり目を開くと


再び、目の前に航平君。


しかも、倒れそうな梯子を支えている。


「あ、ごめんなさい!!」


そう言って手伝おうとするけど


「怪我してっだろ?」


航平君の少し荒い口調に、萎縮してしまう。


航平君は、器用に梯子を立てかけて


「これで一安心」


と言う。


「あの!ありがとう…ございます!!」


と深々と頭を下げる私。


「…別に、大した事じゃ」


「でも、助けてもらった…」


言いかけた瞬間、再び気付く。


航平君と距離の短さに…


きゃあぁぁぁ!!


近すぎる!


完全に頭は、テンパっていて


もうどうしようもなく、訳が分からなくて


とりあえず、再び距離をおこうとしたら


腕を掴まれた。


え?


航平君は、息をついて


「また、どっかにぶつかるつもり?」


と言う。


そういや、狭い倉庫だから、いろんな備品が置いてあって、結構余裕ない。


でも、航平君との距離が短すぎる!


「そんなに俺の近くにいるの…嫌?」


切なそうな顔をする航平君。


私は、首を横に振って


「そんな事は…!」


と言って、自分の発した言葉で、顔が赤くなる。


また、何言ってんのよ私は!!


これじゃ…まるで…


「…ふぅん」


航平君は、少し口角を上げて笑い


「嫌じゃないんだ?」


挑発的な笑いをする。


「…えっと、その…あの…」


何を言ったらいいのか分からないで、ただアタフタしている私。


「佐藤って…可愛いよね」


航平君の言葉に


【ドクン!!】


胸が鳴る。


「え?」


目を大きく開いて驚いてしまう。


…私が可愛い?


どこが?


どうしたらそうなるの?


冷静に考えても、どこからどう見ても


"私は可愛くない"


部類に入る。


地味だし


内気だし


ヘタレだし


スタイルもいい訳じゃなくて


顔も十人並み


どこをどう取ったら



"可愛い"



という要素が出るのか、皆目見当もつかない。


フリーズしたままの私。


航平君は、クスクス笑っている。


あ…もしかして…


バカにされてる?


【チクン…】


胸に棘が刺さったみたいに痛い。


そうだよね…


私が可愛いだなんて、本気で言ってないよね?


そう…だよね…


あぁ、なんて、単純なんだ私は。


航平君のウソの言葉に騙されて


勝手にときめいて


バカみたい…


あ…涙が出そう…


緩んでくる涙腺。


航平君は、私の顎を取り


「そんなに可愛いと…」


と言う。


え?また可愛いって…


いやいや、もう騙されないよ。


「イジワルしたくなる」


色っぽい声。


近づく航平君の顔。


え…?


次の瞬間-






航平君とキスしていた…




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