『キスー逃走』

何…?


何が起こった…の?


頭の中が真っ白になる。


唇が離れた後でも


私は動けないでいた。


今…"キス"された?


何で?


どうして?


憧れの航平君とのキス


生まれて初めてのキス


嬉しいハズなのに…


それなのに…


私の頬には、涙が伝っていた。


私の涙に、驚いている航平君。


「ごめん…」


切なそうに顔を逸らす。


…どうして謝るの?


反動的に鞄を握りしめて倉庫から飛び出す。


「佐藤!」


航平君の声が後ろから聞こえる。


でも、そこから立ち去りたかった。


…分かっている。


航平君がキスしたのは、ただのイジワル。


私をバカにしているから。


彼にとっては、キスなんて何ともないんだ。


いっぱい女の子と付き合っているんだから。


キスなんて腐るくらいにやっている。


でも…


でも…


私にとっては…


生まれて初めてのキス


なんだよ?


初めてなんだから…


私だって女の子。


だから、"キス"にだって夢があった。


大好きな人と


すごくロマンチックなシチュで。


『好きだよ』


って囁かれて。


大好きな人と


心が繋がっているって確信して。


大好きな航平君とのキス。


憧れの航平君とのキス。


でも…


こんなの嬉しくも、ないよ…



嬉しくもなんともない!!



悲しい気持ちのまま…


溢れる涙を堪えたまま…


…家路に着いた。



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