『帰宅→経緯説明』

でも、やっぱり家に帰らないといけない。


お父さんの運転する車で家に着くと3人でテーブルにつく。


お母さんは、一息ついて


「で、その手は、どうしたの?」


私は、言葉に詰まる。


「えっと…その…机で打ったの」


どう言えばいいのか分からなくて、それだけ答えた。


嘘は言ってない。


お母さんは、またため息をついて


「だから、どうしたら、そんなに強く机で打つわけ?…まさか」


お母さんの顔を曇る。


「い…イジメじゃないよ!!」


お母さんの言葉を制するように言ったけど、


「やっぱりね」


お母さんは、納得したように言う。


【イジメ】という言葉に反応したお父さんも


「どういう事だ?」


と、顔を険しくして聞いてきた。


私は、怖くて、なんて言えば穏便に事が済むか一生懸命考えたけど、何も浮かばない


どうしよ、どうしよ、どうしよ


どうしたらいいんだろ


目を瞑ったまま考えている私。


お母さんは、またため息をついて


「とりえず、凛ちゃんに聞いてみましょ」


そう言って立ち上がった。


「や、止めて!」


私は、テーブルに手をついて立ち上がる。


その衝動で、左手が痛む。


「いた…」


痛みで顔が歪む。


お父さんは、びっくりして立ち上がる。


「み、美奈…」


狼狽するお父さん。


お母さんは、私を見据えて


「美奈が話さないからでしょ?それともまさか…」


「凛ちゃんは、何もしてないよ!」


すぐにハッと口を押える。


「やっぱり…」


そう言って


「誰なの?」


お母さんは、問い詰める。


そこに


電話が鳴る。


「あっと…」


お母さんは、電話に気付いて電話の方へと向かう。


よかったぁ


あとは電話の間に、考えとかないと


お父さんとお母さんに、どう話すか。


「はい佐藤ですが…あら、凛ちゃん?」


お母さんの声に、胸が潰れるかと思った。


「わざわざごめんなさいね。今、電話しようとおもっていたのよ。おばさんから掛け直すから…でも…そう…じゃあ、美奈の手の事だけど…」


お母さんは、しばらく無言で、凛ちゃんの話に耳を傾ける。


振り向いたままのお父さんも無言。


どうしよう


どうしよう


お父さんとお母さんに知られた…


なんて言い訳しよう?


私が悪いのに…


お母さんの事だから、きっと学校にも電話する。


そしたら、先生に迷惑掛かっちゃう。


それに深田さん達からの、仕返しが怖い。


どうしよう


どうしたらいいの?


頭の中は、グルグル回ってる。


おバカな頭では、いい考えが浮かばない。


焦れば焦るくらいに…


「そうだったの…」


お母さんが、やっと口を開いた。


「凛ちゃんが謝る事じゃないわよ。美奈の気が弱いのがいけないんだから…いつもごめんなさいね、美奈が迷惑かけて…本当に感謝しているわ」


お母さんが、凛ちゃんに謝っている姿をみて胸が痛んだ。


"お母さんに迷惑かけている"


ごめんなさい。


悪い子で、ごめんなさい。


胸が痛い。


痛くてたまらない。


「あら、津田さん。いつも、美奈がお世話に…」


どうやら電話は、凛ちゃんのお母さんに変わったみたい。


凛ちゃんのお母さんは、凛ちゃんの師匠。


空手道場をやっているの。


凛ちゃんと同じで、キリッとしたかっこいいお母さん。


「いえ…そんな…美奈の方が迷惑をかけているのに」


凛ちゃんのお母さんが謝っているみたい。


「ええ、明日学校に電話して詳しく聞いてみますわ」


お母さんの言葉に固まってしまう。


…やっぱり、学校に電話するんだ。


どうしよう。


それだけは止めてもらわないと。


先生は、きっと深田さんを追及する。


そしたら、深田さんは私を…


それに



"航平君から、もっと嫌われちゃう"



深田さんは、航平君の大切な幼馴染みだから。


航平君から嫌われてしまう。


…それは嫌。


「それでは、失礼いたします。わざわざお電話ありがとうございました。では…」


受話器を置いて、お母さんは息をつく。


私を見て、テーブルへと戻ってくる。


怒られる!!


咄嗟に身構えた。


お母さんは、私を見据えたまま


「どうして、お母さん達に話さなかったの?」


そう問いかけてきた。


涙がこみ上げてくる。


必死に抑えたけど、涙は流れていく。


「美奈…」


お父さんは、狼狽するばかり。


お母さんは、冷静に私を見て


「怒られるって思ったの?」


その言葉に、頷く。


お母さんは、ふっと表情を緩めて


「そんな訳ないじゃない。美奈は、悪い事してないのよ」


「でも…でも…私、弱虫だから…」


泣きじゃくりながら私は言う。


お母さんは、私の頭を撫でて


「怒るわけないじゃない」


わぁぁっと、声を上げて泣いた。


「ごめんなさい…ごめんなさい…ごめんなさい」


何度も謝りながら。


お母さんは、何も言わずに抱きしめてくれた。


「それで、いつからなの?」


泣きやんだ私に、お母さんは問いかける。


「…中学3年の頃から」


「え?同じ中学の子なの?」


コクンと頷く私。


「どうして?」


「分からない。でも、中3の文化祭の後、私に絡んできて…それからずっと」


俯いて答える。


「どうして、お母さんに言わないのよ」


ぼやく様に、お母さんは言う。


「だって…」


唇を噛んだ。


お母さんはため息をつく。


「ツラかったでしょう?」


お母さんの言葉に、首を横に振る。


「いつも、凛ちゃんが庇ってくれたし、高校になってからは楓ちゃんも…二人で私を守ってくれていたから」


「…そう」


お母さんは、何度目だろうかため息をついてから


「とりあえず、明日、学校に連絡するからね」


「でも…!!」


私は、顔を上げる。


「怪我までさせたんだから、悪質だわ。ちゃんと学校の方で指導してもらわないと」


お母さんは、厳しい表情で言う。


私は、俯いて唇を噛む。



"これで航平君に嫌われる"



胸が痛くて


痛くて


でも、お母さんの言っているのは間違っていない。


だから、何も言えなくて…


そんな自分が、すごく




情けなかった




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