『登校』
学校に行く時も、すごく憂鬱で
ほんと、消えてしまいたかったけど
お父さんとお母さんが心配するから
笑って家を出た。
家を出てすぐに、凛ちゃんがいた。
心配そうに私を見つめる。
「凛ちゃん、迷惑かけてごめんね」
私がそう言うと
「何言ってんのよ?私こそ、一緒にいてあげられなくて…」
凛ちゃんの言葉に私は首を横に振り
「うぅん、凛ちゃんは、いつも庇ってくれている。弱い私がいけないの」
そう言って笑顔を作る。
「学校にいこ」
本当は、行きたくないけど
それでも学校に行かないと
お父さん、お母さん、凛ちゃん、楓ちゃん…
私の大切な人たちが、心配する。
「深田達が、何かしてきたら言いなよ」
凛ちゃんの言葉は、嬉しかった。
でも、ちゃんと自分で解決しないと。
他人ばかり、あてにしたらいけない。
だけど…
私は、弱いから…
きっと何も出来ない…かもしれない。
【ざわ…】
凛ちゃんと教室に入ると、中の空気が変わる。
みんな、私達…いや、私を見ている。
この手が注目されている?
咄嗟に手を隠す。
「おはよ」
いつもと変わりなく楓ちゃんが声を掛けてきた。
「…おはよう、楓ちゃん」
小さな声で答える私。
「おはよ」
凛ちゃんは、楓ちゃんに言ってから
「どうしたわけ?」
凛ちゃんの問いに、楓ちゃんは表情を暗くして
「あぁ…さっき、古川先生に深田さん達が呼ばれたのよ。神妙な面持ちだったから、たぶん…」
そう言って私の手を見る。
「自業自得だよ」
凛ちゃんは、吐き捨てる。
「私もそう思う。でも、あっちはそう思ってないだろうね」
苦々しく言う。
「昨日の事は、大半の連中が見ているからね」
そう言ってから窓辺を見る。
「深田達もバカだよねぇ」
小馬鹿にしたような平沢さんの声。
「やるんだったら、分かんないようにしないとヤバいでしょ?」
それに同調するかのような古瀬さん。
「でも、親にチクるのもサイテー」
と言って、私をチラリと見る。
思わず萎縮してしまった。
「大人しそうな顔して、やる事サイテー。ね?航平君」
平沢さんは、名前を呼びながら航平君にすり寄る。
たぶん、深田さんが航平君の幼馴染みだから、航平君の気を引こうと思っているんだろうと思う。
そんな風に考える私…最低かな?
航平君は、窓の外を見たまま
「別に…どうでもいい」
面倒臭そうに言う。
その言葉は、平沢さんにとっては嬉しかったみたい、途端に表情が明るくなり
「そうよね。どうでもいいよね?」
そう言って、すり寄ろうとするけど、航平君に、あっさり交わされた。
「アイツ…」
楓ちゃんが小さく呟く。
そして、航平君の元へ行き
「あんた、サイテーな男だね」
航平君に向かって言った。
その言葉に反論したのは、平沢さん
「ちょっとアンタ!航平君に何言ってる訳?」
楓ちゃんに向かって言ったけど、楓ちゃんは
「あんたには言ってないでしょ?私は、安藤に言ってんの」
その言葉で、航平君は、ゆっくりと楓ちゃんを見る。
そして
「うん、俺ってサイテーなヤツだよ」
そう言った。
平沢さんは、慌てて
「そんな…航平君は、何も悪い事してないじゃん!悪いのは…深田とあの子でしょ?」
そう言って私を指差す。
「いくらなんでも、自分で何もしないで親にチクるなんてサイ…」
そこに凛ちゃんが口を挟む。
「美奈のお母さんに言ったのは私。美奈は何も言ってないよ」
強い口調で言う。
平沢さんは、グッと言葉を詰まらせる。
「まぁまぁ…落ち着いて」
間に入るように言ったのは、天野潤(アマノジュン)君。
航平君の幼馴染みで、悪友。
もちろん、深田さんとも幼馴染みだ。
天野君は、
「みんなが、興味津々で見てるよ」
と言う。
そう言われてみれば、クラスのミンナは好奇心旺盛に、事の成り行きを見守っている。
楓ちゃんも凛ちゃんも、冷静になったようだ。
だが、深田さんは違う。
「ちょっと、天野!口出ししないでよ!これは…!」
「航平の問題。平沢には関係ない話だろ?」
天野君の言葉に、言い返せない。
そこに航平君は、ゆっくりと立ち上がる。
誰もが航平君の行動に注目した。
「俺…サボるわ」
小さく呟く彼。
そして、鞄を持って教室を後にする。
「あ、待って!」
それを追いかける平沢さん。
私達を睨みつける事を忘れない。
その後を追うように古瀬さんも出ていく。
天野君は、息をついて
「後で、優奈にも航平にも言っておくから。佐藤さん、ごめんね」
軽い感じで言う。
私は首を横に振り
「別に…いいです…」
小さく答えた。
その後、深田さんと小林さんは戻ってきた。
教室に入り際、私達…たぶん私を睨んでいた。
「よくも先生にチクったわね。どこまで、汚いの?」
苦々しく言う。
小林さんも
「言いたいことあるなら、私達に言いなさなよ。親にチクるなんてサイテー」
彼女を煽るように言う。
「美奈のお母さんに話したの私よ」
凛ちゃんが前に立ちはだかる。
「え?」
二人とも驚いている。
「あんた達の、やり様が目に余るから、私が美奈のお母さんに言ったの」
そう言って私の左手を取って
「腫れ上がっていたんだよ!だいたいサイテーなのどっち?美奈が何も言わないからって調子に乗って怪我までさせて」
凛ちゃんの言葉に、二人とも唇を噛んだ。
「しかも、私達がいない間に…どんだけ卑怯なの?」
さらに凛ちゃんの追及は続く。
「…勝手に…そうよ、勝手に打っただけじゃん。私達は悪くない!」
深田さんは、目線を合わせずに言った。
小林さんも頷いて
「そうよ!勝手に机にぶつかっただけだよ。私達のせいにされて、チョー迷惑なんですけど」
これには、凛ちゃんだけじゃない、楓ちゃんも、カチンと来たようだ。
「あんたたち!」
凛ちゃんが声を上げた瞬間
「いい加減にしな!!」
前田さんの声が響いた。
そして、私も
「もうやめて!凛ちゃん、楓ちゃん!」
思わず二人と止めていた。
「恵美…」
弱弱しく深田さんが言う。
「怪我させたの、優奈でしょう?ちゃんと謝りな」
優しく諭す彼女。
二人とも黙っている。
だが…
「私は悪くないんだから!!」
深田さんは、そう叫んで教室を出ていく。
小林さんも
「あ、待って…優奈」
そう言って彼女を追いかける。
前田さんは、私に頭を下げて
「ほんと、ごめんね」
そう言ってから彼女も二人を追った。
教室内が、ざわざわしている。
みんな、私達を見ながら囁き合っていた。
-ここにはいたくない。
好奇な視線に堪えられない。
でも、逃げる訳には行かない。
私が逃げたら、きっと二人に…凛ちゃんと楓ちゃんに迷惑かかるから。
好奇の視線に堪えながら、過ごすしかなかった。
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