『講習』

真夏の暑い日々に



わざわざ学校に来て



勉強をする。




受験生の運命なんだろうな。


最初の1週間は休んでしまったけど、それからは毎日のように講習に明け暮れている。


凛ちゃんや楓ちゃんも一緒だし


それに、航平君にも会えるし


つまんないって思っていた最後の夏休みもそれなりに楽しんでいる。


あれから、航平君と一言も話してない。


なんだか、航平君の方から距離を置かれているような気がする。


これが私の現実なんだね…


仕方ないよ。


だって、あの航平君だよ?


カッコよくて


運動神経も、そこそこ良くて


頭も、それなりにいいし


どこをとっても完璧超人。


私なんて


地味で


暗くて


可愛くなくて


ネガティブで


どうしようもなくおバカさんで


何度も痛い目に遭って


そんな私じゃ…ね…


航平君に釣り合わないよ


夢を見ていたんだよ。


キスして、抱きしめられて


微笑まれて、優しい眼差しで見つめられて


ほんと、バカだよね


何を勘違いしてんだか…


そういや、古瀬さんが講習に来ていた。


代わりに平沢さんはいない。


古瀬さんのお父さんが持ってきてボイスレコーダー


私と航平君の証言


これで、平沢さん…父娘は逮捕される事になった。


平沢さんは未成年だから補導?


古瀬さんのお父さんも偽証罪で逮捕された。


古瀬さんは、未成年で父親を想っての行動だったから、釈放された。


少しの間、あの事で話題は持ちきりだった。


私や航平君に、話を聞こうとしている人が多かった。


凛ちゃんや楓ちゃんがいてくれてよかった。


2人が何とか交わしてくれたから。


航平君は


『別に…』


という感じで何も語らない。


そして、古瀬さんが講習に来て、彼女の周りに人垣が出来た。


彼女も、一切何も語らなかった。


そして、私も…


受験生である事を思い出したのか、次第にその話題は薄れていき…


今じゃ、全員必死に講習を受けている。


「あともう少しだね」


凛ちゃんが軽く背伸びする。


「うん」


私が相槌を打つと


「そう言えば、美奈。今日は何の日か分かってる?」


楓ちゃんが確認するように聞いてくる。


分かっているよー


だって、ずいぶん前から、しつこいくらいに言われていたし…


そう…


今日は




【花火大会】




先週の日曜に、お母さんと一緒にデパートで浴衣を買った。


鼻歌歌いながら、ご機嫌なお母さん。


何か企んでないか?


と疑ってしまう。


私は、可愛い感じのがよかったのに…


『可愛いのは持っているでしょ?』


とか言って、色っぽい浴衣を持ってきた。


いやいやいや!!


それ無理!!


そんなの私が着ても似合わないって!!


必死の抵抗も虚しく…


お母さんが勝手に決めた浴衣を購入した。


家に帰ってお父さんに見せたら


『なんじゃこりゃあ!!』


とか、絶叫していた。


お母さんに、抗議していたけど、うちではお母さんが強いから


結局、ねじ伏せられていたみたい。


ちょっと可哀想…


「とにかく、5時に駅前だよ」


ニコニコ笑う楓ちゃん。


…何やら怪しい?


親友を疑う真似はしたくないんだけど


なんかおかしいんだよね。


何か企んでいても、たぶん失敗するんじゃないかな…


だって、私だもん。


凛ちゃんや楓ちゃんの思惑、いつもぶっ壊してきたし…


ある意味で私は、すごいのかも…


だって、凛ちゃんや楓ちゃんと振り回してきたんだよ


あ…ちょっとだけ自分に自信がついた。


どういう自信だろうね。


可笑しくなった。


「どうしたの?」


凛ちゃんが顔を覗き込む。


私は、手を横に振って


「別に何も…」


そう言ってから、机にうつ伏せになる。


「楽しみだなぁ」


心から言った。


高校最後の花火大会。


新しい浴衣


親友と歩く屋台


見上げる花火


そして…


…大好きな人と偶然会えるかも


なんていう小さな期待。


自然と顔が綻んでくる。


それを見た2人が笑う。


「え?」


私が2人を見上げると


「やっと、美奈が笑った」


楓ちゃんが嬉しそうに言う。


「でも、きっと…もっと笑えるよ」


凛ちゃんが意味深な事を言う。


どういう事なんだろう?


そのうち分かるよね?


なんてのん気に考えていた私


後で痛い目に遭うのは


どちらかなのか…


それは、お楽しみという訳だ。


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