『正体の分からない恐怖』

ため息の出るような毎日が過ぎる。


私の周囲には、いつも凛ちゃんか楓ちゃんがいた。


深田さんが私に、ちょっかい出す事は無くなったのに…


何故だろう?


ただ、神林君が、よく話しかけてくる。


こんないい人なのに、苦手なのは何故なんだろう?


凛ちゃんと楓ちゃんは、神林君を警戒している。


どうして?


悪い人じゃないのに…


でも、そんな2人の好意に、感謝している私がいる。


やっぱり、何故だか分からないけど


彼は苦手だから。


登校と下校の時には、必ず声を掛けてくる。


でも、今は登校は凛ちゃん。


下校は楓ちゃんが一緒。


ちなみに下校時には田畑君も一緒だけど。


七夕祭りが近いのに、悪い事しているな…


胸が痛む。


今日は、一人で帰ろう。


きっと、大丈夫だよ。


うん、楓ちゃんと田畑君に迷惑かけないようにしないと…


そう思っていた。


「じゃ、保健室で待っててね」


楓ちゃんの言葉に頷いて、保健室に入る。


「お、来たね」


いつもフレンドリーな加納先生の声。


「お邪魔します」


そう言ってから、保健室にある長椅子に座る。


しばらくしてから


「あの…」


先生に声をかける。


「なんだい?」


「用事があるんで、帰りますって楓ちゃんに伝えてもらえますか?」


「自分で言えばいいじゃないか」


加納先生は、不思議そうにしている。


「そしたら、自分も帰るって言いだしそうだから。ほら、あと3日で七夕祭りですし…生徒会も追い込みしているから」


必死に言い訳を考える。


「そうかい?じゃ、伝えておくよ」


加納先生の言葉に


「ありがとうございます」


そう頭を下げてから鞄を持つ。


「失礼しました」


頭を下げて保健室を出る。


急いで靴に履き替えなきゃ


と、下駄箱に向かっていた私。


「佐藤さん」


後ろから声がかかる。


この声は…


振り向いたら、やっぱり…


神林君が、にこにこと笑顔を浮かべていた。


「何か?」


やっぱり、この人苦手だな。


この笑顔が…ちょっと怖い。


「いや、帰るなら、送っていこうと思って」


笑顔のままで言う。


「いえ、一人で帰れますから」


私にしては、上出来な断り方。


「でも、危ないよ」


「まだ明るいですし」


「でも、深田さん達が、いつ来るか分からないでしょ?」


「大丈夫です」


中々引き下がらない神林君。


「あの…」


私は口を開いた。


「気を使っていただいているのには感謝してます。ですが、大丈夫ですから」


そう言って、彼の前から立ち去ろうとしたら


「待ってよ」


神林君に腕を掴まれた。


結構、強い力で私を握りしめている。


「あの…痛いです…」


私が言うと離すかと思ったけど、離してはくれない。


「まだ、分からないの?この僕が、ただのクラスメイトに優しくすると思う?」


「え?」


私は、驚いてしまう。


「僕は、佐藤さん、君が好きなんだよ」


その言葉は、神林君の口から出た。


「は?」


思わず返してしまった私。


前に航平君に告白されていたせいか、その言葉を頭から信じられなかった。


「だから、僕は君が好きなんだよ」


そう言って私を抱きしめようとする。


「…や!」


思いっきり拒否してしまった私。


思わず彼を突き飛ばしていた。


「ご、ごめんなさい」


すぐに頭を下げた。


神林君は、ニコッと笑い


「ごめんね。僕が悪かったよ。急にこんな事されたらびっくりするよね?」


そう言ってくれたけど


何だか…怖い。


「ごめんなさい…私…」


断ろうとしていた私。


でも、神林君は、その言葉を遮って


「返事は、七夕祭りの日でいいよ」


そう言った。


…七夕祭り。


胸が痛む。


「きっといい返事がもらえるって信じているから」


そう言い残して、彼は私の横を横切っていく。


…ぶるっと悪寒がした。


身動きが取れない。


彼が見えなくなっても、私はその場に立ち尽くしていた。


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