『七夕祭りの前』

その日は来た…


≪七夕祭り≫


当日…


七夕祭り…とは


行事が大好きな理事長が、


『年に一度の逢瀬を、学校を上げて応援しましょう』


とか何とか言って、始まったお祭り。


生徒会主催のお祭りで、内容は至ってシンプル。


演劇部が、毎年恒例の彦星と織姫の物語をステージでやる。


でも、台本は毎年変えてある。


そして、生徒会主催で、ステージでいろんなイベントをやる。


毎年あるのが、彦星と織姫にあやかって、告白大会。


あとは、クイズとかビンゴとか…


毎年違う…らしい。


今年は、何をやるのか、最後まで楓ちゃんは口を割らなかったけど。


とりあえず楽しみ…していた。


私の心が晴れないのは…


数日前に、神林君に告白されて


返事を今日、返さないといけないから。


私の中で、返事は決まっている。


≪NO≫


でも、何て言ったらいいのか分からない。


何だか怖くて…


とりあえず、告白された事は、凛ちゃんと楓ちゃんには、すぐに話した。


二人とも、すっごく不快な顔をしていた。


『…やっぱり』


二人とも、神林君のキモチに気付いていたみたい。


『どうするの?』


そう聞かれたから


『断るよ…何か怖いから…』


私がそう答えたら


『それが正解だよ』


二人とも、そう言ってくれた。


学校への道が、こんなに重いと感じた事はない。


それでも、学校へ向かっているのだから、いつかは辿り着く。


門をくぐった瞬間に


「佐藤さん、おはよう」


後ろから声。


神林君だ。


「おはようございます」


ぎこちない挨拶を返してしまった私。


「今日は、楽しみにしているよ」


笑顔で言う神林君。


やっぱり、その笑顔は…怖い。


断ることを許さないような…


断れば、ひどい目に遭うぞ…と言っているようで。


私の思い違いだと思うけど。


隣で、凛ちゃんが険しい顔をしている。


「そんなに睨まくてもいいよ」


そう言って私達の横をすり抜けていく。


「美奈…」


凛ちゃんが口を開く。


「ハッキリ言ってやんな」


私は頷いた。


≪生徒の皆さんは、体育館へと移動してください≫


校内放送。


楓ちゃんの声。


「美奈、行こう」


凛ちゃんに連れられて体育館へと移動する。


私の手は震えていた。


返事をすることへの恐怖が出てきた。


神林君は、クラスメイトを誘導している。


ほんと、頼りになるクラス委員長さんだ。


「君達も、体育館に行きたまえ」


航平君達に向かって言う。


「えー、めんどくさいよーねぇ航平君」


航平君の隣を陣取っている小林さん。


航平君は、立ち上がり


「行くぞ」


と言う。


小林さんは、唇を尖らせたが


「航平君が行くなら、私も行く―」


そう言って彼の後を追う。


そういえば…平沢さん達は…?


彼女達は、それを遠目に見ている。


でも、表情は嫉妬メラメラで


すぐに別れるとか思っていたのが外れているからイライラしている。


たまにクラスメイトとかに八つ当たりしていた。


私が被害に遭わないのは、凛ちゃんと楓ちゃんのお陰。


二人に守られてばかりじゃダメなんだけどな。


今も、殺意にも似た視線を二人に送っている。


イライラ度Maxだ。


「何よ!!」


チラリと見たクラスメイトの子が、八つ当たりを受けている。


それを、フフンと鼻を鳴らすように見ている小林さん。


火に油を注ぐ…とは、この事だと思う。


平沢さんの表情が、みるみる恐ろしいモノに変わっていく。


こっちもある意味怖い。


私は、凛ちゃんと逃げるように体育館に向かう。


見たくないから…


航平君が、彼女と仲良くしている姿を、見たくなかったから。


だからと言って体育館に行きたくもなかったけど。


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