『七夕祭り』
体育館では、ざわざわと話し声が聞こえてくる。
ステージの脇にある進行表によれば
1.始めの言葉
2.校長先生の話
3.コーラス部の合唱
4.劇≪七夕の伝説≫
5.○×クイズ大会
6.告白大会
7.終わりの言葉
とある。
今年は、○×クイズ大会か…
どんな問題が待っているんだろ?
少しだけドキドキする。
頭の中は、どう返事しようか迷っていたんだけど…
それでも、楽しみではあった。
『今から、七夕祭りを始めまーす』
軽い感じの田畑君の声。
『メインイベントは、最後だからー、暴走しないでねー』
そこで笑いが起きる。
なぜ笑い?
最初は、ちょっと鬱陶しい(て言ったら失礼になるけど…)校長先生の話。
毎回、思うけど…
長い…
長すぎる…
『…最近の風紀は、非常に乱れております…』
七夕に風紀は、関係ないと思うんだけどな…
『…であるからして、生徒の皆さんには…』
はぁ、長い…
周りを見ると、大概の生徒が、面倒臭そうにしている。
≪いい加減に終われ≫
というのが顔に出ている気がする。
視界の端に、航平君が映る。
さすがに腕は組んではいないけど、小林さんが寄り添っている。
…見たくない。
こんなの見たくない。
黒い私が、いる。
あの2人を羨んでいる自分がいる。
そんな自分…嫌になる。
頭を振って、邪念を払う。
見るな!
視界に入れるな!
でも、無意識に私の視界は、航平君に向いてしまう。
お願い…
私の前でイチャつかないで…
『それでは…諸君、くれぐれもハメを外しすぎないように。君達は、まだ学生なのだから』
校長先生の話は終わった。
やっと…
次は、コーラス部の合唱。
七夕の歌がキレイにハモっていて心地いいな。
思わず歌いそうになったよ。
危ない、危ない。
七夕には関係ない歌も歌っていた。
コンクールの課題曲だってアナウンスで言っていたな。
へぇ、やっぱり綺麗な声だ。
あいにくと、歌はそんなに上手じゃない。
カラオケ行っても、緊張してしまって、小さな声でしか歌えないんだよね。
恥ずかしいから、カラオケではあまり歌わないんだけど。
こんな大勢の前で歌えるって、やっぱり度胸あるよね。
私には、ない…
それが終わったら、≪劇 七夕の伝説≫
去年と一昨年は、感動ものだったので、今年は、どんな【泣き】を見せてくれるのか…って期待していたんだけど
今年は、大どんでん返し
コメディタッチに描かれていて
所々で笑いが起こっている。
彦星が織姫に、文字通り尻に敷かれている姿なんて、腹が割れそうになった。
ヘタレ彦星とツンデレ織姫。
親バカぶり天帝。
全校生徒が、笑いにわらった。
でも、やっぱり引き裂かれるシーンは、ちょっと泣けた。
溢れそうな涙を堪える。
あ…また…
航平君が視界に入る。
少し悲しげな航平君の顔。
どうしてそんな悲しそうなの?
口から出そうな言葉を飲み込む。
そんなの意味なんてない。
分かっている。
今…彼は…彼女と幸せなんだから…
だから…
ぎゅっと拳を握った。
往生際の悪い私
いつまでも引きずっている私
早く前に進め!
諦めて早く進め!
でも、まだ夢を見ている。
あの告白が嘘でないと、信じたい私がいる。
だが、それと同時に現実を思い出す。
…神林君からの告白。
今日が返事の日。
どうしよう…
なんて言って断ろうか。
でも…
航平君を諦める為に、彼と付き合うのもいいかもしれない。
真面目そうだし。
もしかしたら、好きになるかもしれない。
でも…
怖い…
彼のあの笑顔…
偽りのような気がして…
断れば…
怖い…気がする。
それは、気のせい。
神林君は、いい人だ。
クラスの事も考えて、みんなが嫌がる事をやってくれているし
先生からの評判もいい。
だから
気のせいだよ。
私の思い違いだよ。
言い聞かせているけど…
気になる。
”神林には気をつけな”
楓ちゃんの言葉が気になってる。
どういう事?
あれから、楓ちゃんに、それはどういう事なのか聞いてない。
いや、聞けない。
怖くて…
聞けないでいる。
弱虫でヘタレな私。
ダメだな…
いろいろ考えているうちに、次の演目に移った。
≪○×クイズ大会≫
賞品は、なんだろう?
【会長の祝福のキス】
or
【学食1か月分】
とある。
会長の祝福のキス?
そんなのいるの?
とか思っていたら
一部の女子が闘志を燃やしている。
「きゃあ、優勝したらどうしよう」
なんて、はしゃいでいる子も。
田畑君…人気あるんだね。
ルックスは悪くないし
女の子には優しいし
成績も悪くない方だと聞いているし
運動も、それなりに出来る。
確かに、モテ要素ある。
会長選挙で、2位に大差つけたくらいだし。
人望もそれなりにある。
女の子だったら、確かにな…
でも、私は、中学の時から航平君が好きだから…
≪彼女≫がいたとしても…
好きだから。
我ながら女々しいよね…
笑えちゃう。
○×クイズ大会の優勝は、1年生の男子が取った。
女子生徒の悔しい顔。
会長のキスが目前だったからね。
残念そうに肩を落としている。
当然、その子は、学食1か月分を請求。
なんだ…
これで【会長のキス】だったら、面白かったのにな。
周囲の生徒も
「こらー会長のキスとれー」
なんて野次飛ばしているし。
それが終わったら、いよいよ告白大会だ。
そういや、彼女がいても、航平君には声がかかる。
それだけ、航平君はモテるって事。
今年も、無謀な女子が告白をしている。
「ごめんなさい」
航平君の声が響く。
余裕で見ている小林さんを見て、羨ましかったな。
彼に想われているって…いいな。
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