『逃げられない告白』

そして、何事もなかったかのように過ぎるかと思っていたら…


『次は、3年4組神林一郎君』


そう声がかかった。


え?神林君?


まさか…


公然で…


返事をしろと…


隣にいた凛ちゃんの表情が険しくなる。


壇上に上がった神林君は、マイクを手に取り


『3年4組佐藤美奈さん』


響き渡る声で言う。


『好きです。僕と付き合ってください』


一瞬だけ、シーンとなった。


そして、視線は私の注がれる。


えー?


ここで返事しろっていうの?


頭が真っ白な状態の私を生徒会の役員さんがステージへと引っ張っていく。


壇上に上げられて、神林君の前に。


ニコニコ笑っている神林君。


…何?


…何だか…怖い…


舞台の袖で、楓ちゃんが心配そうに見ている。


大勢の視線に晒されて、完全に上がってしまった私。


「大丈夫。僕がフォローするから」


神林君が言う。


こんな大勢の前で≪NO≫を突きつけたら…


きっと、神林君は恥をかくだろうな。


みんなの前で恥をかかされたら、可哀想だな。


でも、偽りの返事をするのは…嫌だ。


ちらりと神林君を見る。


相変わらずニコニコ笑顔だ。


ゴクリ…と唾を飲み込む。


そして、壇上の下を見る。


興味津々な顔…顔…顔…


凛ちゃん…どこ?


どこにいるの?


怖い…怖いよ…


助けて…


ぎゅっと手を握る。


…ダメ


いつまでも、凛ちゃんや楓ちゃんに甘えていちゃダメ。


これは、私の問題…


だから、自分で解決しないと。


自分で前に進まないと…


凛ちゃんは見つけられないのに…


どうして…


航平君は見つけられるのだろう?


隣には、小林さんがすごい形相で見ている…気がする。


航平君は…


どうして?


何故、そんな険しい顔をしているの?


どうして、悲しそうな目をしているの?


分からない。


分からないよ。


もしかして…


私の事…


いやいやあり得ない。


だって、小林さんっていう彼女がいるんだよ。


ラブラブだって認めているんだよ。


あり得ないよ。


そんな瞳で私を見ないで。


きゅっと唇を噛む。


一回深呼吸。


そして…






「ごめんなさい!!」






大きな声で、深々と頭を下げている私だった。


騒然となる場-


頭を上げると、神林君が信じられない表情をしているのが見える。


踵を返して壇上から降りる。


そして、凛ちゃんの元へ…


凛ちゃんの制服を握りしめる。


「頑張ったね」


凛ちゃんの言葉が響く。


泣きそうになったけど、堪えた。


ここで泣いちゃいけない。


神林君は、呆然自失のまま壇上から降ろされた…と楓ちゃんに聞いた。


ごめんなさい。


私は、あなたのキモチには応えられません。


だって、私は、航平君が…


好きだから


彼女がいたとしても、それでも


私は航平君が好き


だから…


本当にごめんなさい。


人のいい神林君。


ごめんなさい。


その後も続いた告白大会。


私は、俯いて凛ちゃんの制服を握りしめたまま、神林君への申し訳ないキモチで一杯だった。


その時、神林君に何が起こっていたのか


分からなかった。


分からなかったんだ。

昼休みー

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