『幸せという、イマ』

「ねぇ…美奈の部屋…見せて」


にっこり笑う航平君。


「え?あの…その…」


目を泳がせて、回避する方法を模索する。


「…もしかして、入れたくないの?」


イジワルな聞き方。


「だってぇ、可愛い部屋じゃないし…」


泣きそうな声で言う。


「でも見たい」


笑顔で言う航平君。


「…後日、改めてって事で」


必死に回避しようとする私。


「…ふぅん」


航平君は立ち上がる。


「どうしたの?」


「トイレ」


ニッコリ笑ってリビングから出ていく。


…よかった


どうやら回避した。


なんて、安心していた私。


【トントントン…】


という階段を上る音に


心の中で絶叫しながら、慌ててリビングを出ていく。


急いで階段を上がる。


時すでに遅し…


航平君の手は、ドアのノブを捻り


ドアが全開されていた。


「おー…」


満足そうにつぶやく。


「きゃあぁぁぁ!!」


絶叫しながら航平君の前に立ち、部屋の侵入を拒む。


しかし…


「無駄な抵抗」


笑いながら、航平君は私を抱えてベッドへ下した。


…何をする気ですか?


「ふふ…ん」


楽しそうに上から微笑む。


背中に変な汗が流れた。


「…この前の続き…やる?」


そう私に問うた。


この前?





…花火大会?


あの、恥ずかしくて記憶から消してしまいたい記憶が蘇る。


おそろく顔が真っ赤になっているであろう私の見下ろしながら


「おや?美奈ちゃん、どうしたの?」


楽しそうに聞いてくる。


そして、私の上に優しく覆いかぶさった


唇が触れ合う感触


舌が絡み合う感触


それだけで頭は真っ白になって


体が火照ってくる。


航平君の唇が離れた。


しばらく私を見つめた後


「そんな煽るような目で…」


満足そうに笑う。


そして、私の上から離れて


「少し待つ」


航平君は言う。


「え?」


「俺だって男だし、そういうのには興味あるけど」


そう言って、航平君は笑った。


「美奈が大事だから」


その瞬間に、私の心は鷲掴み状態に入った。


航平君に抱きついて


「ごめんね」


と言い


「でも…いつか…」


私とは思えない大胆な発言をしていた。


これには、航平君も驚いている。


「うん…わかった」


そう言ってから私の頭を撫でる。


『こらぁ航平!帰るぞ!!』


すっかり酔っぱらった航平君のお母さんの声。


「タイムアップか」


航平君は苦笑している。


「ま、美奈の部屋にお邪魔するチャンスは、いくらでもあるし」


楽しげに立ち上がる。


「それに、俺の部屋にも来てほしいし」


そう言って意地悪そうに笑う。


恥かしくなって俯く私。


「こらこら、煽るな」


そう言ってから、航平君は私にキスをした。


「じゃあねぇ、今度はうちに遊びに来てねぇ」


航平君に連れられて、航平君のお母さんは帰って行った。


「あれ?お父さんは?」


「あぁ、まだイジケているわ」


「え?」


「放っておきなさい。さ、美奈、後片付けしましょうか」


そう言ってから、お母さんと家の中に入る。


リビングの端では、お父さんは、未だにイジケテいる様子だった。


お母さんと片付けをして、お風呂に入り


それから、宿題をしてからベットに入る。


しかし、その前に…


私は、トイレに行くために1階に下りる。


もしかしたら、お父さん達寝ているからもしれないから、そっと…


『はぁ…』


お父さんのため息を声。


『お父さん、いい加減にしなさいよ』


お母さんの呆れたような声。


『美奈は、ずっと俺の元に置いておきたかった』


『それだけ美奈も成長したって事ですよ』


『でもなぁ…』


『航平君、いい瞳をしていましたね』


『うっ…』


『あんな真剣な瞳をしている子が、美奈を不幸にすると思いますか?』


『ううっ…』


『いい加減しないと、その内、美奈から嫌われますよ』


お母さんの冷たい一言で


『それは嫌だぁ』


お父さんは嘆いている。


あぁ…


私…両親に愛されているんだな。


胸が一杯になって、涙が溢れてきた。


『さ、早く寝ましょ』


お母さんの一言で、慌てて階段を上る。



お父さん


お母さん


私…幸せだよ


2人の子供に生まれて


航平君と出会って


恋をして


いつまで続くかとか


そういうのは分からない。


でもね…


私は…




幸せだよ…

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