『食い違い』

その言葉の通り


早足で歩いてくる靴音。


ガラリとドアが開いて


「美奈が目覚めたって!!!」


お父さんが入ってくる。


「お父さん」


私が言うと


「みーなー」


お父さんは、泣きそうな声で手を握りしめる。


「よかった、3日間も眠っているから…」


目がウルウルしている。


これが、会社では、結構やり手の怖い課長さんだというのだから、可笑しい。


「ごめんね、心配かけて」


私が謝ると


「いいんだよ。美奈は悪くないんだから」


そう言ってから


「美奈を庇った男の子も目覚めたんだって?」


お母さんに確認する。


「ええ、お礼も兼ねて後日、挨拶に行かせてもらうつもり」


「それがいい」


そう言ってから


「それにしても、古瀬って女の子、ひどいな」


お父さんの言葉で、目を見開く。


え?


古瀬さん?


どういう事?


私達…いや、私を落としたのは平沢さんのはず…


「お父さん、今、何て言った?」


確認を取るように聞く。


「いや、古瀬って女の子が、美奈を突き落としたんだろ?」


お父さんが首を傾げる。


どういう事?


状況が掴めない私に


「あなた達を病院に搬送したんだけど、事情聴取するにも、平沢さんだったかしら?彼女は、ショックで口を聞けなくて、古瀬さんも黙ったままだったから、一回親御さんが引き取りにいらしたの」


お母さんの言葉。


「それで、その日の夜、古瀬さんがお父さんに連れられて警察に出頭したんだよ。自分が二人を突き落としましたって」


続いたお父さんの言葉。


…嘘?


犯人は、平沢さんなのに…


どういう事なの?


意味が分からない。


「美奈?」


お母さんが顔を覗き込む。


「…何でもない。記憶が混乱しているのかな?ちょっと分からない」


自分でも何を言っているのか分からなかった。


「そう?」


お父さんとお母さんは顔を見合わせる。


「もう少ししたら、警察の方がみえられるそうよ」


お母さんが言う。


「わかった…」


小さく答えるしかなかった。


しばらくして、やってきた刑事さん。


先日、事情聴取をした時にやってきた刑事さん。


すごく温和な感じの人だ。


「君も大変だったね」


労わるような言葉。


「いえ…」


私は、小さく答えた。


事情聴取は、簡単だった。


古瀬さんの証言の裏付け。


彼女の言葉には偽りはなかった。


ただ…一つだけ…


彼女と平沢さんの立ち位置以外は…


「あの…それで…一体、何故?」


お父さんの問いに、刑事さんは私をチラッと見て


「ゆうなれば、嫉妬ですね」


「「は?」」


両親は、目を丸くする。


「ちょっと外へ…」


刑事さんは、両親を病室の外へ連れ出す。


その間、女刑事さんが私についていてくれた。


「傷は大丈夫?」


その優しい言葉に癒される。


「はい」


私が答える。


「よかった。女の子の体に傷一つつけたら大変だもの。庇ってくれた彼に感謝ね」


「はい…」


俯きながら私は答えた。


「ほんと、あなたは可愛いわ」


「茶化さないでください」


恥かしさのあまり言うと


「本当よ。あなたは、とても可愛いわ」


美人の刑事さんに言われても説得力ないんだけどな。


やがて、刑事さんと両親が中に入ってくる。


お母さんは、普通通りだが、お父さんは何やら怒っているようだ。


「また、新しい情報が入りましたら、参りますので」


刑事さんの言葉に


「お手数をおかけします」


お母さんが言い、2人とも頭を下げる。


「では、お大事に」


そう言ってから刑事さんが病室を出ていく。


お父さんは、憮然として


「なんだ!アイツのせいか!」


…怒っている?


私が、不安げな表情をしていると


「ほら、お父さん。美奈が不安がっているわ」


そう言って、お父さんをつついている。


お父さんは、笑顔になり


「美奈は、あんな害虫に近づいたらダメだぞ」


は?


害虫?


首を傾げてしまう。


お母さんは、クスクス笑いながら


「お父さん、仕事に戻らないでいいのですか?」


と言うと、お父さんは腕時計を見て


「お、そうだ。忘れていた。じゃ、美奈、後で来るからな」


そう言って、お父さんも颯爽と去って行った。


お母さんは、何が面白いのかクスクス笑っている。


「お母さん?」


私が声を掛けると


「ほんと、お父さんは美奈が可愛いのね」


そう言った。


だから、何の事?


しばらくすると、お母さんが連絡してくれたのか、凛ちゃんと楓ちゃんが


「「みなー」」


と言いながら、お見舞いに来てくれた。


「ごめんね。心配かけて」


私が言うと


「心配した。でも、よかった」


凛ちゃんが安心したように言う。


「ちょっと、飲み物でも買ってくるわね」


お母さんが、そう言って病室から出ていく。


「あの、お構いなく…」


楓ちゃんが言ったけど、たぶん聞こえてない。


「…あのね」


私は、重々しく口を開いた。


「どうしたの?」


凛ちゃんが、私の険しい表情で、深刻な話と悟ったみたい。


「実は…私を突き落としたの…平沢さんなの」


私の言葉に、2人とも驚いている。


「え?でも…古瀬さんが警察に…」


楓ちゃんが驚いたように言う。


「だから、分からないの」


そう言って、シーツを握りしめる。


楓ちゃんは、ウーンと考えて


「もしかしたら…裏で平沢のお父さんが糸引いているかもね」


小さな声で言う。


「…かも」


凛ちゃんも同意した。


「平沢さんは?」


私の問いに、2人は顔を見合わせて


「ずっと家に閉じこもっているって聞いたわ」


凛ちゃんが答えてくれた。


「…私の記憶違いかな?」


私の言葉に


凛ちゃんは首を横に振って


「違うと思う。たぶん、古瀬さんは身代りに出頭したのよ。何かの見返りとしてね」


そう言って、私の手の上に自分の手を重ねてくれた。


「あーそういえば…」


楓ちゃんが何か思い出したようだ。


「何?」


私が身を乗り出すように聞く。


「私も詳しくは知らないんだけど、古瀬が平沢の奴隷みたいになっていたの…あれって実は、古瀬のお父さんの会社の取引先が平沢のお父さんの会社で、確かその関係でって聞いたような」


曖昧な感じで言う。


「あーじゃあ、たぶん、身代りにしたんだろうね。仕事上の取引を条件に」


凛ちゃんが納得したように言う。


…どんな気持ちで身代りになったんだろう?


古瀬さんの事を考えてしまう。


凛ちゃんと楓ちゃんは、それを悟って


「別に、美奈が気にすることじゃないからね」


そう言って凛ちゃんが肩を叩いてくれた。


「でも…」


「美奈は何も悪くないんだからね」


楓ちゃんの言葉に、少し救われた。


お母さんが戻ってから、飲み物を受け取り


3人で話をする。


「花火大会大丈夫かな?」


私が不安げに言う。


お母さんは、笑いながら


「大丈夫よ」


そう言ってから


「あの安藤君って子に、可愛い浴衣姿見せないとね」


耳元で言う。


私の顔が真っ赤になる。


「あれ?おばさん知っていたんですか?」


凛ちゃんの言葉に


「見てたら分かるわよ。母親だもの」


お母さんは、楽しそうだ。


二人とも笑っている。


うーひどい…


「今年は、浴衣を新調しなきゃね」


楽しそうに鼻歌を歌っているお母さん。


人を、おちょくって楽しんでいるでしょ?


そんなお母さんを、2人はクスクス笑いながら言う。


「じゃあ私達も…」


意味深な事を言う。


「何?」


私が首を傾げる。


「「内緒」」


二人は、何やら企んでいるご様子…


ちょっと嫌な予感がする。


そして、おもむろに立ち上がる。


「じゃ、また明日来ます」


楓ちゃんが言う。


「あら、ごめんなさいね」


お母さんが言うと


「いえ…」


凛ちゃんは笑顔で言い、そして2人は病室から出ていく。


「いいお友達ね」


お母さんの言葉に頷く。



私の自慢の親友だもの

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