『目覚めたら天井』
「う…ん…」
重い瞼を開いて、最初に見えたのは、白い天井…
確認の為、もう一度瞼を閉じてから開く。
やっぱり、景色は変わらない。
この天井…
見覚えがない。
ここは…どこ?
体を動かそうとして、激痛が走る。
頭も痛いし、体も痛い。
何とか動く腕。
動かしてみると、包帯が見える。
…包帯?
少しの痛みに堪えながら、指先が頭に触れる。
頭にも包帯?
感覚が戻ってくる。
足にも包帯が巻かれている感覚がする。
…もしかしなくても、病院?
何故…ここに?
ピンボケするような意識で、記憶を探る。
…そうだ
思い出した。
私…階段から…落ちたんだ。
平沢さんに突き落とされて…
…一人で?
いや、違う!!
航平君!!
航平君と一緒に落ちた。
そうだ…航平君
航平君は?
微かに痛む頭を動かす。
個室らしくて、周りには誰もいない。
「美奈!!」
入り口からお母さんの声がする。
「美奈、よかった」
安堵したようなお母さんの声に、私は申し訳ない気持ちで、いっぱいになった。
「ごめん…な…さい」
微かな声を振り絞ると
「何で謝るの?」
泣きそうなお母さんの問い。
「だって…迷惑…かけた」
私の返事に、お母さんは泣きながら笑い
「何言ってるの?親に何の遠慮しているのよ!!」
お母さんの言葉が胸に染み入る。
その後、お母さんが呼んだお医者様が、やってきた。
いくつかの質問や触診などをした後
「もう大丈夫ですよ」
笑顔をお医者様に、お母さんは、ホッとした表情を浮かべる。
「ありがとうございます」
病室を出ていく、お医者様に深々と頭を下げた。
私は、ずっと気になっている事を口に出す。
「あの…お母さん…」
声を絞り出す。
「何?」
振り返ったお母さんに、疑問をぶつける。
「こ…安藤君は…?」
その瞬間、お母さんの表情が陰る。
どうしたの?
航平君、どうかしたの?
まさか…?
「彼は…まだ目覚めてないの」
お母さんの言葉に驚く。
痛みで重くなった体。
その痛みに堪えながら起き上がる。
「美奈!」
「連れて行って…」
絞り出す声。
「え?」
「彼の所に…お願い…」
「でも、あなたまだ…」
「お願いお母さん!」
私の懇願に、お母さんは仕方ないように
「分かったわ」
諦めたように言う。
お母さんが借りてきてくれた車椅子。
それに乗った後、お母さんに押されて病室を出る。
航平君がいる病室は、3つ隣で、すぐに辿り着く。
【コンコン…】
お母さんがドアを鳴らすと
『はい?』
中から、女性の声。
「すみません、佐藤です」
お母さんが言うと
『どうぞ』
中の女性が答えた。
ドアが開く。
一番最初に目に入ったのは、スーツを着た中年の女性。
キャリアウーマンって感じ。
「この度は、娘が…」
お母さんが、深々と頭を下げると、
「いいえ、娘さんは悪くありません。お顔を上げてください」
私達に歩み寄りながら言う。
「美奈さんですね?」
そう優しく言う航平君のお母さん。
「すみませんでした」
私も謝罪の言葉を口にする。
航平君のお母さんは、首を横に振り
「いいえ、あなたは悪くないわ。謝るのは私達の方。そもそも息子が原因なのだから」
ツラそうにしている。
「あの…安藤君に…」
「どうぞ」
航平君のお母さんが、航平君の元に連れて行ってくれる。
頭に包帯を巻いていて、医療器具みたいなものが繋がっている。
「あの…安藤君は、大丈夫なんですか?」
泣きそうになっている私の声。
「ええ。後遺症などはないだろうって」
「そうですか…」
少しだけ安心した。
眠っている航平君を見つめる。
キレイな寝顔。
でも、包帯とかが痛々しい。
抑えていたのに涙が零れる。
布団から出ていた右手に、そっと触れる。
本当、航平君は、どのパーツも綺麗に整っている。
触れた手は、少し冷たかった。
その手を握りしめて
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
小さく、何度も呟く。
「私のせいで…ごめんなさい」
零れる涙を抑えきれずにいた。
その指が、ピクリと動く。
「え?」
私だけじゃない、航平君のお母さんも反応する。
瞼が、ピクッと動く。
「う…」
一回だけ顔を顰めてから、ゆっくりと航平君の瞼が開かれた。
「航平!」
航平君のお母さんが駆け寄る。
最初に天井を見つめてから、周囲に視線を動かす。
「…母さん?」
航平君の言葉に、お母さんが泣き出した。
「よかった…」
安堵の声を上げる。
後ろでお母さんも涙ぐんでいる。
彼の視線が動いて、私に向く。
航平君は、微笑みながら言う。
『よかった…無事で…』
微かな声。
それだけで、涙が溢れてくる。
「ごめんなさい」
俯く私に、航平君は首を横に振って
「…佐藤のせいじゃない。俺が悪いんだから」
そう言って、私が握りしめていた手を握り返した。
優しい手。
それだけで胸が一杯になる。
その後、航平君の元にも、お医者様がやってきた。
「大丈夫ですね」
お医者様の言葉に、安堵している。
「あなたのおかげね」
航平君のお母さんの言葉に、私は首を振る。
「そんな…」
俯く私に
「きっと、あなたのお蔭よ」
航平君のお母さんは、微笑んでくれた。
二人とも、目覚めたばかりだから…と、その後、私も病室に戻った。
「あの子?」
お母さんの問いに
「え?」
私は首を傾げる。
「前に言っていた、好きな男の子」
お母さんの言葉に、顔が熱くなる。
「あら、可愛い」
お母さんは、嬉しそうだ。
「あんなイケメンの男の子なら、お母さんは賛成だわ」
機嫌よく言っている。
「…そんな、私なんか」
自信なさげに俯いていると
「美奈は、こんなに可愛いんだから、少しは自信を持ちなさい」
お母さんはクスクス笑っている。
あ、絶対、面白がっている。
「あーでも…」
お母さんの表情が曇る。
「何?」
「お父さんには、まだ言ったらダメよ」
そう言った。
「え?」
私が首を傾げていると
「お父さんは、美奈が可愛過ぎるからねぇ」
呆れたように言う。
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