『いつもとは違うナニカ』

二人の仲が学校中に広まるまで、そんなに時間は要しなかった。


だって、休み時間になるとベタベタしてるんだもん。


目も当てられない位に。


それをイライラした様子で見ている平沢さん。


二人の周囲には誰もいない。


いつも一緒の辻谷君、天野君、田畑君も。


田畑君は、生徒会の仕事で、さっき楓ちゃんに首根っこ掴まされて連行されちゃったんだけど。


天野君と辻谷君は、神妙な面持ちで二人を見ている。


やっぱり、友達ともなると、ラブラブな二人の邪魔はしないようにしているのね。


でも、今までと違う。


だって、今までは、【彼女】が隣にいてもいなくても、一緒にいたのに…


やっぱり、それだけ小林さんが特別って事なのかな?


事実を突きつけられば、突きつけられる程に胸が痛い。


「おあつい事で」


凛ちゃんの一言に私は苦笑する。


「仕方ないよ。好き合っている二人なんだからさ」


そう言うと


「美奈が、そんな事言うなんて珍しい」


そう口にする。


「…そうかな?」


私は、作り笑いをする。


たぶん、私は怒っていると思う。


だって、嘘の告白されたんだよ?


キスも2回もされたんだよ?


本当は思ってもいないくせに、甘い言葉を囁かれたんだよ?


当たり前っての!


でも、そんな航平君より、まだ彼の言葉とかを信じたいって思っている私に


一番腹が立っている。


今さら、どうやったら信じられる訳?


彼女…小林さんと、イチャついている航平君を、どう信じろって訳?


あんなの見せつけられて


信じられる訳ないじゃん。


でも、その怒りを凛ちゃんに話す訳にはいかない。


だって、たぶん、きっと…


怒って、航平君をぶん殴るの分かっている。


航平君が殴られるのが嫌…とかじゃない


凛ちゃんに嫌な思い…違う


私が嫌われるのが嫌なんだ。


どこまで、私は保身的なんだ。


悲しくなってくる。


そこに予鈴が鳴り、少ししたら楓ちゃん達が帰ってくる。


「絶対に、放課後逃げるなよ!!」


田畑君に念を押している。


「はいはい…」


のほほん、と田畑君は答えた。


「生徒会長なんだからさ、もっと…こう…」


「わかったって」


ニコニコ笑う彼に、楓ちゃんは諦めたようにため息をつく。


「…疲れた」


そう言ってから、田畑君から離れた。


「あんたたちも、おあつい事で」


凛ちゃんが冷やかしを入れると


「凛…今度言ったらキレるよ?」


楓ちゃんは、恐ろしい形相で言う。


「うちの学校の名物になっているよ。楓が、会長追い回してるの」


ケラケラ笑いながら言うと


「な…そんなんじゃないって。会長いないと困るだけよ」


楓ちゃんは、ムキになって言い返す。


…これは脈ありか?


「はいはい、分かりました」


凛ちゃんが、笑いながら言うと


「凛…その笑顔…ムカつく」


楓ちゃんは、凛ちゃんの頬を引っ張る。


「ひゃーへーへーひょー」

 (やーめーてーよー)


凛ちゃんの言葉に


「ムカつく―」


楓ちゃんは、更に引っ張ろうとするけど


そこに本鈴が鳴って、先生が教室に入ってくる。


二人は慌てて、席についた。


私は、チラリと航平君を見る。


興味なさそうに外を見ていた。


…何を考えているのかな?


やっぱり、彼女…小林さんの事かな?


二人でデートして、そして…キスして…


きゃあ、何を考えているの?


もう…


でもね、でもね


それが私だったらいいのにって


思っている。


そんな私…



キライ…


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