『違和感と救いの手』

「佐藤さん」


放課後、帰り用意をしていた私。


話しかけてきたのは、神林君。


「はい?」


視線を鞄から神林君に向ける。


「手、痛そうだね?大丈夫?」


ニコニコと爽やかに笑う。


なんか、この笑顔…怖い。


「大丈夫です」


それでも笑顔で答えた。


「それはよかった」


「じゃあ…」


会釈して帰ろうとしたけど


「待って」


神林君に腕を掴まれる。


「何ですか?」


何だろう?


神林君は、


「あぁ、ごめんね」


パッと手を離す。


そして


「一緒に帰らない?」


突然の言葉。


「は?」


私は、固まってしまう。


「深田さんから、また何かされたらって思ってさ。クラス委員としては気になるから」


神林君は、取り繕うように言う。


「ありがとうございます。でも、大丈夫です」


私は、そう答えた。


でも、神林君は、引かない。


「でも、心配なんだ。彼女の悪質さを見てると。一応謝りはしたけど、形だけの気がしてさ」


そう言って、航平君達を見る。


「アイツの幼馴染みだから、気を付けないと」


苦々しく言った。


「ねぇねぇ、航平君、帰りにマックに行かない?」


小林さんが甘えるように言う。


「…そうだな」


航平君は、彼女を見ないでそう答えた。


「ん、もう!航平君ったら、照れてる?」


小林さんの幸せオーラが見える。


目を背けたくなった。


神林君は、航平君を睨んで


「あいつに関わる人間は、ろくな奴がいない」


吐き捨てるように言う。


「佐藤さんは、あんな連中に関わったらダメだよ」


ピクリ、と指が動く。


「…ええ、そうね」


怒りとか悔しさとは、そういう悪い感情がグルグルと渦巻いている。


【どうして、からかったの?】


【なぜ、私だったの?】


そんな、疑問が何度も何度も木霊する。


「じゃ、私、帰ります」


そう言って教室から出て行こうとするけど


「まって、佐藤さん」


神林君に止められる。


「危ないから、一緒に帰ろう」


…何?


しつこいんだけど…


少しというよりかなり困ってしまう。


だけど、彼も私の身を心配しているのだろうから、何も言えない。


どうしよう…


そう考えていた時


「佐藤さん」


横から声がかかった。


声を掛けてきたのは、田畑君。


その瞬間に神林君の表情が険しくなる。


そう言えば…


生徒会会長の選挙で、負けたんだよね…


大差で。


その事を、すごく根に持っているらしいって楓ちゃんが言ってたなぁ。


田畑君は、神林君の刺すような視線を気にも留めていない様子で


「副会長が呼んでいたよ」


と、笑顔で言った。


「え?楓ちゃんが?」


「うん、副会長が」


「そうですか…では、行きます」


私は、二人に会釈して行こうとしたけど


「俺も生徒会室行かないとならないから、一緒に行くよ」


田畑君がそう行って私の手を引く。


「おい!彼女に気安く触るな!」


神林君が、注意したけど


「さ、いこ」


ぐいぐい私を引っ張っていく。


後ろから、殺意にも似た視線を感じるけど、田畑君、全然気にしてない。


…ちょっと尊敬しちゃう。


私だったら、堪えられないもん。


教室から、しばらく離れてから、田畑君は私の手を離して


「もういいかな」


と言った。


え?もういいかな?


首を傾げる私に


「あー、さっきの嘘」


田畑君は明るく言った。


「え?」


嘘って、何が?


もしかして、楓ちゃんが呼んでるって話?


その場でフリーズしたままの私に


「こうでも言わないと、アイツしつこいでしょ?」


田畑君は、笑いながら言う。


あ…


そういう事か…


おバカな私の頭でも理解した。


「ありがとう」


素直に頭を下げる私。


田畑君は、手を横に振って


「いいよー大した事じゃないし…それに…」


その表情が、少しだけ曇る。


「それに?」


私が、再び首を傾げていると


「何でもないよ。とりあえず、生徒会室に言って、副会長に会ってから帰りなよ…いや、もしかしたら…待ち伏せしているかもしれないね」


田畑君は、うーんと考えて


「ま、とりあえず生徒会室に向かいますか」


と、再び私の手を取る。


「あ…あの…」


そのまま生徒会室に連行されていった。


「やっほー」


生徒会室の扉を開けて、かるーい感じで挨拶をすると


「遅い!!」


楓ちゃんの声がする。


そして、私が連行されているのに気付くと


「こら!!美奈に何すんのよ!!」


そう言って田畑君の手をひっぱたく。


「あ…あのね」


私が事情を話そうとすると


「ちぇっ…せっかく佐藤さんを神林の魔の手から救ってきたのに…」


拗ねたように田畑君が言った。


「え?神林君?」


楓ちゃんの表情が曇る。


「なるほど…だから、ここに連れてきた訳か」


頭の回転のいい楓ちゃんは、理解出来たようだ。


何故に?


私は、未だに意味が分からないんですけど…


「まぁいいわ。美奈、生徒会の仕事が終わるまで、図書室…も危ないわね、保健室に行ってな」


楓ちゃんは、そう言う。


「え…?」


意味の分からない私に


「いいの!そこが一番安全なんだから!あぁ、でも途中が危ないか」


そう言って、私の手を取り


「じゃ、ちょっくら保健室に行ってきます。あ、会長!その資料に目を通して署名と捺印よろしく」


と、生徒会室を後にする。


「あ、あの…楓ちゃん?」


意味の分からない私。


「ん?」


振り向いた楓ちゃんに


「どういう事なのか分からないんだけど」


そう言ったら、楓ちゃんは驚いた表情になり


「あー、そっか気付いてない訳ね」


そう言って苦笑する。


「ねぇ楓ちゃん」


「神林君には気をつけた方がいいよ」


楓ちゃんの、くぐもった声に私は驚いた。

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