『忍び寄るナニカ』

「なんで?」


首を傾げる私に


「何ででも」


楓ちゃんは答える。


そして、ピタリと足を止めた。


「神林…」


小さく呟く。


前の見ると、笑顔の神林君がいる。


「用事終わった?」


笑顔でいう神林君に


「今日、一緒に帰る予定なの」


答えたのは、楓ちゃん。


神林君は、一瞬、ムッとしたようだったけど


「どうして?」


「美奈を一人で帰すのが心配だからに決まっているじゃないですか」


「でも、坂本さんは生徒会の仕事があるだろ?まさか、待たせるのかい?」


「そうですが?」


「それは、可哀想だろ?」


「別に神林君に関係ないと思いますが」


楓ちゃんは、笑顔で答える。


「しかし、君が終わるまでどこで待たせるつもりだい?」


「保健室です」


「先生に迷惑だろ?」


「構わないと、先生はおっしゃってくださいますよ」


と返してから


「では、失礼しますね」


そう言ってから神林君の横をすり抜ける。


「…佐藤さんは、同意しているのかい?」


神林君は、自信ありげに言う。


「はぁ?」


楓ちゃんは振り返った。


「見たところ、佐藤さん、困っているじゃないか。君は無理矢理、彼女を引き回しているんじゃないか?」


神林君の言葉に、カチンときたのか


「神林…」


何か言おうとしたけど


「一緒に帰ろうって言ったの私の方です!」


思わず私は答えていた。


「え?」


神林君は、驚きの表情を浮かべている。


「私が、一人じゃ怖いから、楓ちゃんに一緒に帰ってほしいって頼んだんです。だから、無理矢理じゃありません!!」


ハッキリとそう言った。


「美奈…」


楓ちゃんは、嬉しそうに笑う。


神林君は、顔を引き攣らせて


「…そうか、君がそういうなら仕方ないね」


と言って


「友達思いの彼女に感謝するんだな」


楓ちゃんに向かって言う。


ムッとしている楓ちゃん。


「じゃ、僕は帰るよ」


神林君が、その場を去っていく。


「美奈…ありがと」


楓ちゃんの言葉に首を横に振る。


「うぅん、楓ちゃんこそ、私の事を思ってくれてありがとう」


「行こっか」


「うん」


私は、楓ちゃんに連れられて保健室へと向かった。




"神林には気をつけな"




楓ちゃんの言葉が気になる。


保健室で待っている間も、ずっと考えていたけど、おバカな頭では答えが見つからない。


「お待たせ」


楓ちゃんがお迎えに来てくれて、加納先生に頭を下げてから保健室を後にした。


帰り道も、楓ちゃんにその意味聞こうとしたけど、険しくて、何か周りを警戒している感じだったから、何も聞けないでいた。


しかも…生徒会長まで一緒だった。


「あの…」


田畑君に尋ねる。


「なんで、田畑君まで?」


私の問いかけに、田畑君は笑顔で


「女の子2人で帰らせる訳にはいかないでしょー」


相変わらず笑顔で答えてくれた。


「…はぁ」


微妙に納得してないけど…


「いいの!こんなのでも、役に立つ時もある」


切り捨てるように言う楓ちゃん。


一瞬、顔を顰めて


「やっぱり…」


と呟く。


やっぱりって何?


何が?


聞きたくとも、楓ちゃんの発するオーラから聞けない。


田畑君がクスリと笑い


「君を守ってくれているんだよ」


小さな声で私に耳打ちしてくれた。


私を?


何から?


その意味に気付くのは、まだ先。


楓ちゃんは顔を顰めて


「しつこい…」


小さく呟いた。


え?


しつこい?


その意味が分からなかったが、凛ちゃんの目線の先に誰かがいる気がした。


一瞬だけ見えた姿…神林君?


どうしたんだろ?


だけど、何だか


少し怖い…


背中に寒気がした…


そんな私の様子に気付いた田畑君は


「じゃ、早く帰りましょう」


そう言って私の手を取る。


「ちょ…田畑…」


「さーいこー佐藤さん」


ルンルンとスキップでもしそうなテンション。


田畑君、明るいなぁ。


思わず、クスッと笑ってしまう。


「あ、ごめんなさい」


私が謝ると


「いいよー佐藤さんが笑ってくれたから」


そう言ってくれた。


「そうよ、こんなのいくらでも笑ってやりな」


楓ちゃんの言葉に、再び笑ってしまう。


「ひでーな。坂本は」


田畑君は、少し拗ねたようだ。


「まぁまぁ…」


そんな彼を慰めるように言うと


「やっぱり佐藤さんは、優しいね」


田畑君の言葉に赤面してしまう。


「あれ?照れてる?」


その言葉でさらに赤面。


「美奈をイジメルな!!」


楓ちゃんが、グーで殴る。


「ひでーな」


頭を擦りながら田畑君。


思わず声を上げて笑ってしまった。


「あ…ごめんなさい。つい…」


そう言うと


「いいよー」


「いいのよ」


田畑君と楓ちゃんは、笑いながら言う。


それに気を取られていた私は、神林君の事を、すっかり忘れていた訳で…


彼が柱の陰に隠れて、物凄い視線を私達に送っていた事なんて、知らないで。


その視線が意味する事とか


何で神林君が、そこにいたのか


そんな事、全く考えてなくて


ただ…


ただ、その時間が楽しいと感じていた。


後悔したのは、まだ先…


いや、少しだけ先…

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