『夏休みの始まり』

検査とかで、1週間くらい入院した。


あー私の貴重な高校生活最後の夏休みが、無駄に過ぎてしまった。


ま、いいや。


これから、楽しめば…


でも、海とかプールは禁止された。


殺生な!!


あーでも、講習とかそういうので夏休みは潰れるから、元々行けなかったかもしれないけど…


家に戻った私は、早速宿題に取り掛かる。


…けど、暑さには勝てない。


私の部屋にもエアコンくらい付けてくれてもいいのにさ。


お父さんが、部屋に閉じこもってスキンシップが取れないとかなんとか


そう言って、結局、夜以外はエアコンはつけられなくなった。。


仕方ない…1階でやりますかね。


勉強道具を持って1階へと下りていく。


「お母さん、ここで宿題やっていい?」


エアコンの恩恵を受けているリビング。


あーなんて天国なの。


お母さんは呆れながらも


「仕方ないわね」


と言ってくれた。


テーブルに座り宿題を始める。


「あんまり無理したらダメよ」


お母さんの忠告。


「ん…でも、明日から講習受けないとならないから」


シャーペンをクルクル回しながら答える。


「そんなに無理しなくてもいいのに」


「だって、大学の推薦枠欲しいし」


今の時代、大卒じゃないとね…


それも、知名度高い大学じゃないと。


あとあと困るって、お母さん言っていたじゃん。


そうやってから時間が過ぎていく。


玄関のベルがなった。


「美奈ぁ、出てきて」


台所で忙しいお母さんに言われて、渋々リビングを出る。


うわぁあっつ!!


誰だよ?


そう思いながら玄関のドアを開けると


「あ…」


小さく呟く。


先日の刑事さん達だった。


「確認したいことがあるんですが…」


刑事さんの言葉に


「はい?」


何かあったのかな?


「あなた方を階段の下に落としたのは、古瀬由希さんで間違いないですか?」


刑事さんの問いに、戸惑った。


私の記憶では平沢さんだ。


私は迷いながら


「いえ…平沢さんだと記憶してます」


小さく答えた。


刑事さんは驚いて


「何故、あの時言わなかったのですか?」


そう訊いてきたから


「もしかしたら、私の記憶違いかもって思って。古瀬さんが自首したって聞いたから」


そう言った後


「すみませんでした」


深々と頭を下げた。


「いや、構いませんよ。彼女の証言には偽りがなかった。だから、そう思っても仕方ないでしょう」


刑事さんは、優しく微笑んでくれた。


「でも…どうして?」


私が疑問に思った事。


何故、今頃?


そう思った。


刑事さんは、迷いながらも


「いや、今朝、古瀬由希さんのお父さんが警察にあるモノを持って出頭されて、自分たちの偽証を認めたんだよ」


そう答えてくれた。


だが、それでも意味が分からない。


「それは、ボイスレコーダーで、平沢氏との裏取引の一部始終を録音していたそうだ」


やっぱり、親同士の裏取引があったんだ。


「どうやら、平沢氏の進めているプロジェクトへの参加を条件に古瀬氏の娘さんに自分の娘の身代りを要求したそうなんだが、その約束が反故されたそうだ」


刑事さんは、淡々と話してくれている。


「でも、平沢氏は、娘さんの罪を盾にプロジェクトへの参加を取り消したそうだ。犯罪者の親だから…という理由で」


うわー汚い人だ。


「だが、古瀬氏も平沢氏の傲慢なやり方については知っていたから、保険に…と録音していたそうだ。そういう意味では古瀬氏が一枚上手だったって事だな」


そう言って、刑事さんは笑みを浮かべる。


「ま、約束は反故され、娘は無実の罪に…なんて冗談ではない!!彼は、そう思って警察に出頭したそうだ」


刑事さんの話を聞いて、怒りが湧いた。


大人の世界は、よく分からない。


騙し騙され合いの世界なのかもしれない。


だけど、平沢さんのお父さんのやった事は許せなかった。


「こちらとしても、あなたと安藤君の証言を取ってから、平沢さんの所に向かうつもりなんですがね」


「そうですか…」


「また、何かありましたら寄らせていただきます」


刑事さんは、頭を下げてから去って行った。


「美奈?どうしたの?」


お母さんが、私の帰りが遅いからと出てくる。


「うん…今…刑事さんが来て…」


お母さんに、今の話をした。


「そうだったの?何で早く言わないの?」


お母さんの少しだけ怒った言葉に


「ごめんなさい」


萎縮してしまう。


「自分の記憶違いかもって思ったかもしれないけど、一応話してくれたらよかったのに…」


「ごめんなさい」


何度謝っても足りない。


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