『恐怖と安心感、相対するキモチ』
二人を見送ると
「さ、夕食の準備をしましょ」
お母さんに抱かれるように家の中に入っていく。
…だが、それだけじゃ終わらなかった。
お父さんが帰ってくるまでに、お母さんはご飯の準備を進めていた。
たぶん、食事の後に詳しく聞かれるかもしれないと思った。
だけど、ご飯を食べてから
「今日は、疲れたから」
と言って自分の部屋に行く。
お父さんとお母さんの心配そうに気を遣ってくれているのが分かるから。
ベッドで横になっても眠れない…
眠れるはずがない。
怖かった…
そして、嬉しかった。
航平君が助けに来てくれて。
すごく…
でも、神林君に植え付けられた恐怖が蘇る。
涙が止まらない。
でも、航平君に抱きしめられた喜び。
首筋にキスされる寸前だった時の早鐘のような鼓動。
私の中で、幸福と苦痛の感情が、渦巻いて、ぐちゃぐちゃな状態。
出来るならば、幸福に浸っていたいけど…
やっぱり、無理で
今日も眠れない夜になるのかと思った。
数日、あまり眠ってないから、やっぱり少しダルい気がする。
…学校行きたくないな。
行ったら、噂が広まっているだろうから
好奇の視線に晒されるのは分かっている。
誰かの心無い冷やかしが待っているって分かっている。
逃げたい…
心の底から逃げたい…
でも…
逃げちゃダメ
逃げても何も始まらないんだよ?
それに…ちゃんとお礼しなきゃ。
航平君だけじゃない
天野君、辻谷君、田畑君にも。
ちゃんとお礼を言わなきゃ。
でも、ちゃんと言えるか自信がなかった。
言いたくないとかじゃなくて…
緊張して何も言えないかもしれないって。
忘れていたけど、私はヘタレで
上がり症だから
それにしても…
よくあんな言葉が出たものだと思う。
『あんたなんか大嫌い!!最低!!フラれたからって、女を無理矢理手籠めにしようとするなんて!!男の風上にも置けない。お願いだから、私の目の前から消て!!』
だから、あの時、自分でもびっくりしてた。
思い出しながらクスクス笑う。
あ…笑えた。
そして同時に恥ずかしい気持ちが…
たぶん
きっとね
航平君がいてくれたから
言えたんだと思う。
航平君が守ってくれたから
私は、あんな事言えたんだと思う。
だけど…
航平君は、彼女の…小林さんの彼氏だから…
偶然助けただけなんだから
期待してはいけないんだよね。
分かっている。
そういえば、どうして彼らはあの場にいたんだろう?
何で来たんだろ?
聞いてみたい気もするけど
たぶん、自分からは言えないよね…うん
私…きっと聞けないね。
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