『事件後の帰宅』

どう転んでも、お父さんとお母さんには知られる訳で…


楓ちゃんに連れられて家に到着した瞬間


「美奈!」


お母さんが玄関のドアを開けて出てきてしまった。


私の頭や体を触りながら


「大丈夫?大丈夫なの?」


心配そうに聞いてきた。


「…大丈夫だよ」


精一杯の笑顔で答えたけど、上手く笑えてなかったのかな?


「無理しなくていいの!」


そう言って抱きしめてくれた。


隣に楓ちゃんがいる事に気付いたお母さん


「楓ちゃん、ごめんなさいね」


すまなそうに謝る。


楓ちゃんは、首を横に振って


「いいえ、私がついていながら、美奈をこんな目に遭わせてしまって…」


逆に楓ちゃんが、すまなそうにしている。


お母さんは、首を横に振ってから


「違うわ、美奈が油断していたからよ」


そう言ってから


「今日は、美奈も落ち着かないだろうから、また後日、お礼に伺わせてもらうわね」


楓ちゃんは、手を横に振り


「そんな…いいです」


そう言うけど


「そうしないと気が済まないわ。助けてくれた男の子にも」


お母さんの気迫に


「…はい」


さすがの楓ちゃんも、圧されたようだ。


「明日ね」


そう言ってから、楓ちゃんは帰って行った。


お母さんに肩を抱かれて家の中へ入る。


「お風呂、入りたい」


あのヌメッとしたモノが触れた部分を消したくてそう言った。


「…そうね」


お母さんは、何も聞かない。


破けたブラウスは、保健室で着替えた。


予備が用意されている事に感謝だ。


でも、キレイに洗って返さないといけない。


シャワーを浴びながら、首筋をゴシゴシ洗う。


だけど、どんなに洗っても、キレイにならない感覚。


あの恐怖が甦る。


怖い…


涙が溢れて止まらない。


でも、お母さんに心配かけたくない。


もう、泣くな。


自分に言い聞かせた。


とりあえず、涙が引いたから、お風呂を出る。


お母さんが着替えを持ってきてくれていた。


ありがとう


言葉では言い尽くせない。


「…分かりました」


お母さんが受話器を置く。


電話?


誰からだろう?


首を傾げていると


「警察からよ」


お母さんが答えてくれた。


ビクッと肩が揺れる。


一応、学校で事情聴取は済ませてきた。


思い出すのも不愉快だったけれど…


その間、楓ちゃんが肩を抱いてくれていた。


「どうも供述が、噛み合わないみたいなのよ」


お母さんの言葉に、顔をしかめた。


どうも神林君は、自分は誘惑されただけで被害者だと、主張しているらしい。


どこまでも…


呆れを通り越してしまう。


彼にとっては、自分が世界の中心なんだろう。


「美奈…大丈夫?無理なら…」


お母さんの言葉に、私は首を横に振り


「逃げる訳にはいかないから」


笑顔を作ったけど、やっぱり上手くはいかないものだ。


そんな私を、お母さんはまた抱きしめてくれた。


【バタン!!】


派手に玄関のドアが開く。


【ドタドタ…】


廊下を走る音。


飛び込んで来たのは、やっぱりお父さんだった。


「み、美奈ぁ!大丈夫かぁ!?」


完全に息が上がってるみたい。


私に駆け寄って


「怖かったろう?」


心配そうに聞いてきた。


そして、


「よしよし、もう怖くないからな」


そう言って、頭を撫でてくれた。


その様子を呆れて見ているお母さん。


「…もう」


仕方ない…と言いたげだ。


飛び込んで来たのは、お父さんだけじゃない。


玄関のチャイムが鳴って


「はい?」


お母さんが出てみると


「あの!美奈は、大丈夫ですか?」


血相を抱えて、凛ちゃんが言うと


お母さんは、クスクス笑いながら


「大丈夫よ」


そう言ってから


「わざわざありがとうね。入って」


「あ…でも…」


「無事な姿を見た方がいいでしょ?」


お母さんに言われて、凛ちゃんは中に入る。


居間にいる私を見ると、凛ちゃんは抱きついてきた。


「あ…凛ちゃん?」


「無事で…よかった…」


今にも泣きそうな凛ちゃんの声。


私も泣きそうになった。


「安藤君や、辻谷君、天野君、田畑君とあと先生のお陰で、未遂で済んだよ」


私の言葉に


「安藤たちが?何で?」


凛ちゃんは、疑問を口にする。


それは、私も気になってはいたけど…


聞く暇が無かった。


保健室で着替えたら、警察の事情聴取だったし


終わったら、お母さんが心配しているだろうからって、楓ちゃんが送ってくれたから


「ま、いいわ。あいつらもやるじゃん」


凛ちゃんが、そう言って笑ってくれた。


「うん…そうだね」


私は、淋しく笑う。


「美奈?」


顔を覗き込む凛ちゃんに


「明日…いろいろと話をするね。楓ちゃんにも聞いてほしいから」


私は、それだけ言う。


「どうかしたの?まさか…神林に何かされたの?」


凛ちゃんが心配そうに聞くけど


私は首を横に振って


「違うよ。未遂で済んだ」


そう答えて


「明日…話すね」


と笑顔で言った…つもりだけど、ちゃんと笑えていたかどうか分からない。


ただ…凛ちゃん達に、もう隠し事はしない方がいいって思うから。


だから、正直に話す。


私のキモチも


あの倉庫での出来事も


そして、嘘だった告白の事も


あとは、立ち聞きした屋上での事も


何もかも…


きっと、凛ちゃんと楓ちゃんは、怒るだろうし軽蔑されるかもしれない。


それに、航平君を一発殴りに行こうとするんじゃないかって思う。


でも、やっぱり親友だから


隠し事はしたくない。


「そう…」


私の決意が分かるのか、それだけ言ってから


「じゃあ、うちのお母さんも心配しているだろうから、帰ります」


そう言って、うちの両親に頭を下げる。


「わざわざありがとうね」


お母さんが言う。


「暗いから、送っていこう」


お父さんが言う。


「いいえ!」


凛ちゃんは、断ったけど


「君も女の子だからね。夜道は危ない」


そう言うお父さんに押し切られる形で、凛ちゃんは、近くなのにも関わらず、お父さんの車で送る事になった。

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