『航平-別れの決意』

時は巻き戻されー今朝


「俺、小林とは別れる」


俺の言葉に、潤も秀人も、いつもヘラヘラ笑っている良太さえも顔を強張らせた。


「え…?でも…」


先に口を開いたのは、潤。


「そうしたら、平沢に…」


秀人は戸惑っている。


「なんで?」


良太は、結構冷静だ。


どんな時でも沈着冷静…最善の道を拓く。


だから、生徒会長の器があると信じて、俺達は良太を生徒会会長に推薦した。


「…逃げたくないから」


短く答えた俺に、眉を顰めて


「逃げる?」


良太は問い返してきた。


「あぁ、俺は今まで逃げていた。…佐藤から。気分のキモチから。佐藤を好きなのに、気を引く為に他の女子と付き合ってみたりして」


グッと拳を握る。


「…最低だよな。考えれば考えるだけバカだよ。正面からぶつかって玉砕する事が怖かった。だから…」


唇を噛む。


「いつも、佐藤の周りには、坂本や津川がいて、手が出せないって。それも言い訳に過ぎない。俺は臆病者だよ」


俺の中に情けない気持ちが溢れ出る。


「だけど、もう逃げないって決めたんだ。佐藤にぶつかって玉砕するって」


そう言った俺の決意を、3人は冷ややかに見ている。


…やっぱ、ダメダメか?


俺って…トホホ…


「もちろん、小林が平沢に話したとしても、俺が佐藤を全力で守る」


そこは大事だよな…うん。


すると、いつものようにニコニコ笑った良太が


「まぁ、お前が決めた事だから口出しはしねぇよ」


と言い、


「せいぜい頑張れ」


秀人が苦笑いを浮かべながら言う。


「まぁ、お前ら、どっちもどっちだな」


潤が、ボソッと呟く。


「え?」


何?【お前ら】?


どういう意味だ?


「まぁ、まずは…」


潤はそう言った後に、視線を前に移す。


小林の姿が見える。


付き合うって事になってから、毎日同じ場所で待っている。


「あいつに上手く言う事だな」


潤の表情が若干黒い。


…あぁ、分かっている。


俺の過ちだから、俺自身がちゃんと清算しないとな。


そう思いながら、小林の前に立つ。


「航平君、おはよう」


ご機嫌な声で、俺の腕に自分の腕を絡ませようとしたが、それを解いた。


「え?」


戸惑いを隠せない表情を俺に向けてくる。


「…小林…ごめん…もう、やめよう」


俺の言葉に目を見開く。


「…どういう事?」


小林の震える声。


「もう、別れようって事だよ」


俺の言葉に、小林は顔色を失った。


「…うそ…でしょ?ねぇ?」


信じられない様子で、俺のシャツを掴む。


「嘘と言って!!」


小林の懇願してくる声に、俺は首を横に振った。


俯いたままの小林。


「…分かったわ」


小さく呟く。


「あの事を、平沢さんに言うから」


そう言って、俺をキッと睨む。


「構わない」


静かに答える俺に


「いいの?あの平沢さんの事だから、彼女を…」


「分かっている」


「だったら…」


「俺が守る」


そう答えた俺に、小林は言葉を失ったようだ。


俺を見つめる小林の瞳。


俺も彼女を見つめ返した。


「…分かった。じゃあ、覚悟しておいて。さようなら」


小林の表情は、今にも泣きそうだったけど、俺は折れない。


やがて、シャツを掴んでいた小林の手が離れる。


フラフラと歩きながら、小林は歩き出した。


学校とは反対方向に。


それを黙ったまま見送る。


ポンっと不意に肩をたたかれる。


潤だ。


「よく…出来たな」


親友の言葉に


「…あぁ。でもこれからだ」


俺は小さく答えた。

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