『終業式』

3日間、小林さんは休んだ。


出てきた彼女は憔悴しきっていて、航平君と別れたショックからだって言うのは分かり切っていた。


学校中が、小林さんに同情する声、航平君を非難する声で溢れていた。


…一部を除いて。


「ねぇ、航平君」


相変わらず平沢さんは、航平君にべったりしている。


だけど、航平君は彼女を冷たくあしらっていた。


それを…


「もう…照れちゃって」


とか、ポジティブな方向に捉えている彼女が、正直羨ましい。


小林さんは、元気なさそうにしている。


深田さんか前田さんが声をかけても、首を横に振っているようだ。


たまに航平君を、チラチラ見ている様子からして、やっぱり航平君に未練があるだなって思う。


何だか、針の筵にいるような教室の中で、1学期は終了する。


受験生である私達には、夏休みの講習などが待っている。


遊んでいる余裕なんてない。


憂鬱になって、ため息が出そうだ。


今日は、終業式だ。


どうか…平和に過ごせますように…


体育館で行われる終業式。


いつもの事ながら、校長先生の話は長い!


長すぎる!


途中で熱中症になるんじゃないかというくらいの熱気の中で、生徒はそれぞれ涼を取ろうと必死だ。


手やハンカチを扇子代わりにしている。


【早く終わらないかな】


と、殺気が出てきた頃。


『えぇ、生徒の皆さんは、学生の本分を忘れずに、節度のある生活を送ってください』


その言葉で校長先生の話は終わった。


3年生にとっては。最後の夏休み。


でも、受験生だから、補修や講習に明け暮れるだろうし、楽しめるかどうかは分からない。


でも、最後の夏休みだから…


いい思い出が出来るといいんだけどな。


そういや、式の間。


…ずっと嫌な視線を感じていた。


確認するのが怖いから、誰かは分からなかったけど。


平沢さん?


まだ、航平君から助けてもらった事を根に持っているのだろうか。


女の子の嫉妬というモノは怖い。


私を助けたからって、航平君と私が、どうこうなろうって事はないのに…


その証拠に、あれから一言も会話してないし。


共通の話題もないしな。


誤解して、ややこしい事にならないといいけど。


終業式が終わってからは、掃除。


そして、ホームルーム。


古川先生の話は、だいたいが校長先生と同じ。


最後の夏休みだからと言って、ハメを外したりしないよう、節度のある生活を送るように…とか何とか。


先生の話は聞きたいけど…


どうも、殺気立った視線の方が気になる私。


もう…何だろうね。


私、何かしたかな?


なんか、気が重くなってきた。


「では、2学期の始業式で会おうか」


先生のその言葉で、クラスのみんなが帰り準備を始める。


セカンドバックに筆記用具とかを入れながら、ため息をつくと


「どうかしたの?」


凜ちゃんが声を掛けてくる。


「あ…凜ちゃん…」


私は、凜ちゃんを手招きして


「何かね、すごい視線を感じるの」


耳元で小さく言うと


「は?それって…」


凜ちゃんが、何やらニヤニヤと笑っている。


「違うの…何か殺気立っているような…」


そういう私の言葉に


「あぁ…」


凜ちゃんは納得したようにしている。


「小林とか平沢だな…それ」


凜ちゃんも小さく言う。


「あ…やっぱり」


ため息をつく私。


「あれに気付いていたんだ。まぁ、気付くよね。あんだけ殺気立っているんだから」


そう言いながら苦笑する凜ちゃん。


「何で、そうなるのかな?やっぱり、安藤君に助けてもらったから?でも、安藤君とは何ともないのに…」


そう言って私がため息をついた後に


「もしかして、私のせいで、安藤君と小林さんは別れたのかな?」


そう漏らすと


「いや…それは美奈のせいじゃないと思うよ。安藤と小林の問題だし」


凜ちゃんが即答する。


それでも、気になるよ…


私のせいだったらどうしよう…


何かされないかな?


怖いな…





…今、自分勝手な事考えていた。


私の事ばかり、考えていた。


最低な私。


身勝手な私。


自己嫌悪に陥る。


「ほら!もう沈まない!」


凜ちゃんが、私の手を取る。


「帰りにどっか行こうよ。楓は生徒会の仕事あるから、それまで待ってさ」


そう言った凜ちゃんに対して


「うん、…そうだね」


私は笑顔を作りながら答えたけど、上手く笑えたのかは分からない。


凜ちゃんに連れられて教室を出る時に


【ゾク…】


背筋が凍りつくような悪寒がする。


何だろう?


一体、誰?


いや、あの2人のどちらか?


それとも両方?


いやいや、はたまた別の人?


そういう憶測が頭を過りながら、凜ちゃんに手を引かれていた。

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