『謝罪』
そして…
「航平君!」
平沢さんの声が明るくなったけど、すぐに表情は不機嫌になる。
航平君は、天野君と一緒に嫌がる深田さんを引っ張ってきていた。
「やだ!」
抵抗する彼女に。
「ちゃんと謝れよ」
そう言いながら。
「でも…」
「俺も一緒に謝るから」
深田さんは、何も言えない。
その情景を見ていると
それでも、嫉妬してしまう。
やっぱり彼女は、大切な幼馴染みなんだって
思い知らされる。
私は弱虫だし、卑怯だから、何も出来ない。
だけど、あからさまに嫉妬を剥き出しにしているのは平沢さん。
「ちょっと、航平君!何してるの?」
そう言ってから、深田さんとの手を離そうとする。
「こんな子関係ないでしょ?」
そう言った。
「平沢…」
航平君は、息をついて
「優奈は、俺の幼馴染みだ。だから、放ってはおけない」
そうキッパリと言い切る。
平沢さんは、顔を真っ赤にして
「何よ!何よ!何よ!幼馴染みだからって!」
と叫ぶ。
そんな彼女を無視して、彼らは私の前に立つ。
「…ほら、優奈」
天野君が、深田さんをつっつく。
深田さんは目を逸らしたまま唇を噛んでいる。
「優奈」
航平君は、そう言ってから、深田さんの頭を掴み
「すみませんでした」
と頭を下げさせる。
もちろん、航平君も一緒にだ。
私の心は痛む。
痛い…
痛いよ…
二人の仲を、見せつけられると…
すごく痛いよ…
でも、私のキモチを気付かれてはいけない。
だから…
「いいです。もう、大丈夫ですから」
そう答えた。
航平君は、顔を上げた。
一瞬、私と目が合う。
昨日の事があったから、私は瞬間的に目を逸らした。
航平君は、深田さんの頭をポンポンと叩いて
「よかったな」
と言う。
深田さんは、目を逸らしたまま
小さく
「ありがとう」
と言った気がする。
もしかして…そんなに悪い子じゃないのかもしれない。
なんて事思ったりした。
人が良すぎるって笑われるかもしれないけど。
深田さんは、謝りに来てくれたから。
…でも、それは航平君が一緒だったからで
深田さんは、航平君の言葉だから素直に聞いているだけで
私に悪いだなんて、思ってないかもしれない。
そういう考えが脳裏をよぎる。
…私、どこまで醜い人間なんだ。
それに、航平君の様子は普通だ。
昨日の事なんて、おくびにも出さない。
…やっぱり、そういう事なんだね。
やっぱり"遊び"のキス。
現実が、一気にのしかかる。
期待している私がバカなんだと思う。
私みたいな子に、興味があるハズがない。
それでも、少しの間だけでも夢を見たかったんだ。
女の子みたいな夢を…
その後、前田さんに連れられた小林さんがやってきた。
彼女も深田さん同様に、バツの悪い顔をしてから自分の席に座る。
航平君は、自分の席である窓辺の席へと移動した。
すかさず
「航平って優しいよね」
そう彼に話しかけているのは、楠本さん。
「…別に」
そっけなく答える航平君。
「だって、いくら幼馴染みとはいえ、謝らさせるなんてしないよー」
そう言ってから腕を絡めてくる。
航平君は、それを振り払い
「別に…気が向いただけ」
そう答えた。
「…ふぅん」
怪訝そうに航平君を見ている。
「ま、いいわ…それより…」
「ちょっと、航平君に何馴れ馴れしく話しかけてんの?」
その間に入ろうとする平沢さん。
その後ろには、いつものように古瀬さんがいる。
「はぁ?」
ムッとした表情の楠本さん。
「あんた、航平君にフラれたんでしょ?いい加減、纏わりつくの止めたら?迷惑なのよ!」
平沢さんの言葉に、カチンときたのか、一瞬だけ顔を歪めたけど
「ふ…」
そう言って口角を上げる。
「な、なによ…」
そういう態度が気に入らない平沢さん。
「航平から、相手にもされてないのに、何言ってんの?」
挑発的に楠本さんは言う。
その言葉は、平沢さんの導火線に火を点けるのには、ちょうどよかった。
「なんですってぇぇ!」
そう言って、楠本さんに手を上げようとしたけど
「うるせぇよ!」
航平君に一蹴される。
「航平…」
「航平君…」
二人は押し黙る。
「ケンカすんなら、別のとこでしてくれる?教室、しかも俺の近くでやられると、迷惑なんだけど」
冷たく言い放つ航平君。
「だって…楠本さんが…」
航平君に向かって、可愛く言い訳しようとしている平沢さん。
「俺にしたら、お前らはただのクラスメイトだから。誰とも付き合う気もないし」
追い打ちをかけるように言う。
楠本さんは、息をついたが
平沢さんは、瞳に涙を潤ませている。
「どうして…?」
涙を堪えながらの言葉。
でも、航平君は動揺もしてない。
「どうして、こんなに好きなのに、応えてくれないの?」
涙ながらに訴える彼女を見ても、航平君は冷静だ。
平沢さんが、猫被っている性格だと知っているから。
周りから同情を買って、航平君を悪者にしようとして、動じさせてようとしているのが
分かっているから。
「何度も言うけど、今は誰とも付き合う気はない」
航平君がキッパリと言い切る。
泣き落としが通じないと、悟ったのか
「分かったわよ!もうどうなっても知らないから!」
そう言って教室から出ていく。
それを古瀬さんが追う。
航平君は、疲れたようにため息をついた。
そして、机にうつぶせになって寝る。
「…いいのか?」
隣にいた天野君。
「…いいよ、別に。そのうちまた来るだろ?来なくなったら儲けもん」
疲れていたのかな?
そのまま寝息を立てていた。
そして、楠本さんは何事もなかったかのように、自分の席に戻る。
その後、航平君は、昼休みまで爆睡していた。
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