『ケガ』

「ちょっとぉ、何、人にガンたれてんのぉ?」


来た…


私の席に近づいてきたのは、深田さんと小林さん。


いつものように、言いがかりから始まる。


「…別に…何も」


私がビクビクしながら小さく答えると


「はぁ?何言ってんの?小さくて聞こえないんですけどぉ」


そう言いながら、私の前に立ち


【バン!!】


机を大きく叩く。


「目障りなんだよ!!早くどっか行けっての!!」


と、脅すように言う。


…怖い。


凛ちゃんも休み時間でいない。


自分で何とかしないと…


「黙ってないで、何か言えっての!!それとも何?黙っていれば、誰かが助けてくれるとでも?」


そう言って辺りを見渡す。


「あんたなんか、誰も庇ってくれないの!!目障りなんだよ!!どっか行け!!」


深田さんは、私の腕を掴んで机から引き摺り下ろす。


さらに深田さんが、私の鞄を手に取り投げつけようとする。


そこに…


「いい加減にしなよ」


そう言って深田さんの腕を掴んだのは、前田さん。


「恵美…」


「やりすぎ」


前田さんに注意されて、彼女は唇を噛む。


鞄を元に戻す。


前田さんは、小林さんの方を向いて


「あんたも、なんで優奈止めないの?」


そう注意すると


「だって…」


小林さんは、狼狽していた。


「寧々!行こ!」


深田さんは、プイッとしてから小林さんを連れて教室から出ていく。


「ごめんね」


私に謝ったのは、前田さん。


私は、首を横に振って


「いいの…きっと私が悪いの」


俯いて言った。


前田さんは、ふぅっと息をついて


「別に佐藤さんが悪い訳じゃないよ」


と、私を立ち上がらせてくれる。


「ありがとう」


私は、緊張しながら震える声で言う。


「いいよ。クラスメイトでしょ?」


そう言ってから


「優奈には私から言っておくから」


そう言ってから彼女も教室を出ていく。


彼女が出て行ってすぐに、凛ちゃんが教室に帰ってきた。


津川凛(ツガワリン)ちゃん。


私の小さい頃からの友達、幼馴染み。


3歳から空手を習っていて、今じゃ空手部の主将をしているの。


幼稚園の頃、男の子にイジめられていた所を助けてくれて、それから仲よくなったん

だ。


その頃から、誰かにイジめられていたら、凛ちゃんが庇ってくれるのが、いつものパターン。


いつも迷惑ばかりかけて…


凛ちゃんに迷惑かけないように


強くならないといけないのに…


いつまでも、凛ちゃんに甘えて


ダメな私…


前に謝った事があったんだ。


でも、その時


『何言ってんの?親友でしょ?』


そうやって笑ってくれた。


ありがとう、凛ちゃん。


「さっき、深田をすれ違ったけど、また何か言われたの?」


心配そうに聞いてくる。


私は、笑顔を作って


「うん…でも、前田さんが助けてくれたから」


そう答えると、凛ちゃんはホッとしたのかな?


顔を緩ませて


「そう…よかった」


と、安心したように言った。


でもすぐに、表情が暗くなって


「ごめんね、私いなかったから」



そう言ってくれた。


私は、首をすごい回数横に振って


「いいよ!凛ちゃんのせいじゃないんだから」


と言って、俯いて


「きっと、私が悪いの…私がいるから…」


そういうと、凛ちゃんは顔を顰めて


「そんな事ない!!美奈は、ここにいていいんだよ!」


両肩を、グッと握りしめた。


私は、笑顔を作って


「ありがとう」


そう言った。


凛ちゃんは、私の左手の甲が少し腫れているのに気付いた。


さっき、机から引き摺り下ろされた時、手の甲を打っていたんだ。


「…美奈、これ…」


凛ちゃんは、私の手を取る。


「大した事じゃないよ。大丈夫」


右手で左手をさすったけど


「腫れてるじゃん!」


凛ちゃんは、私の手を取る。


「保健室行こ」


そう言って、私の腕を掴んで教室を出ていく。


『きゃはは、何それ!!』


窓辺から平沢さんの声が響いた。


凛ちゃんは、その方をジッと睨むように見てから


「アイツ最低…自分の幼馴染みが、イジメやってんのに、無視かよ」


吐き捨てるように小さく言った。


…アイツ


きっと、航平君の事だね。


「関係ないし。どうでもいいんだよ、きっと」


私は、苦笑しながら言った。


その事実は、私の胸に


【ズシっ…】


と重石のようにのしかかったけど…


事実だし


彼にとっては、私はいてもいなくても気付かない存在だから


仕方ないよね…


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