『保健室の出来事』
ふと窓の外を眺めると
体育の授業だろうか、男子がサッカーをしている。
そういや、6時限目って体育だったような。
窓に歩み寄り、外を眺める。
ワーワーと騒ぎながらサッカーをしている男子。
うちのクラスだ。
その中心でボールを蹴っているのは航平君。
そのカッコいい姿に胸が締め付けられる。
そして、その胸板を見て
かぁっと顔が熱くなってきた。
私…あの胸に顔を…
考えるだけで赤面モノだ。
やばい
やばい
落ち着け私の心臓。
冷静になれ。
だが、冷静になると…思い出した。
嫉妬深い平沢さんから…また…
今日も悪意たっぷりだったし。
明日…学校行きたくないな…
ガックリと肩を落とした。
保健室のドアが開く。
「連絡してきたよー…って、何してんの?」
そう言ってから、グラウンドに目を向けて
意味深に笑う。
「あらぁ、誰かを見ていたのかな?」
「ち、違います!!」
真っ赤になって否定したけど、加納先生はニコニコ笑いながら
「いいのよー」
ニヤニヤ笑っている。
「…もういいです」
そう言ってから、椅子に座り利用カードに記入を始める。
書いた後は、暇だな…
「ちょっくら、席外すわ」
おもむろに加納先生が立ち上がる。
「え?」
素っ頓狂な声を上げる私。
「うっふふー、お・は・な・ば・た・け」
語尾にハートマークが付きそうな言葉づかいで、加納先生は保健室を出ていく。
…
…
…
暇だし、男子の体育でも見ましょうかね。
そう思って、再び窓辺に立つ。
えっと、航平君は…あれ?いない?
相も変わらずサッカーの試合が執り行われているのに…
もしかして、休んでいるのかな?
なんだ…つまんない…
航平君いないなら…見る意味ないか
なんて思った私は、結構ヒドイな。
扉の開く音。
加納先生、意外と早かったな。
「先生、早かったですね」
と、振り向いた瞬間…固まってしまった。
保健室の入り口にいるのは、紛れもなく航平君で
航平君も私の姿を見て驚いている。
「…佐藤」
小さく呟いた。
「あ、あ、あの…」
完全に、テンパっていた私。
「ありがとうございました!」
そう言って頭を下げていた。
面食らった顔をしている航平君。
「あっと、えぇっと、その…運んでもらったって聞いたから…」
しどろもどろに話す私に
「…あぁ」
短く答える。
「ごめんなさい。重かったでしょ?」
動揺して何て事口走るのよ?
航平君は、クスリと笑い
「いや、全然」
そう答えてくれた。
あーでも、社交辞令だよねー
「佐藤、軽かったよ」
笑顔で答えてくれた。
いやいや、私重いです。
「それより、先生は?」
航平君の問いに
「今…ちょっと席を外してます」
そう答える。
お手洗いとか言えないし。
「そっか…どうしよっかな?」
よくよくみると、膝から血が出てる。
「大丈夫?」
驚いた私が聞くと
「大した事ないけど、潤達が保健室行けって。でも…先生いないとな」
困ったように言う彼に
「私がやろうか?」
私にしては大胆な発言をしていた。
「え?佐藤が?」
目を丸くする航平君に
「あ、えっと、迷惑じゃなかったら…」
力ない声で言う。
航平君は笑顔を浮かべる。
「さんきゅ」
そう言って笑った顔に、キュンとなった。
「座って」
そう言って椅子を勧める。
航平君が座ると
消毒液と綿とピンセットを取り出す。
消毒液が、かかった瞬間
「いたっ」
航平君が顔を顰める。
「あ、ごめんなさい」
思わず謝る私。
「謝る必要ないよ」
航平君の言葉で、鼓動が高鳴る。
消毒した傷口に絆創膏を貼った。
何とか処置できた。
「ありがと」
航平君の言葉に
「こちらこそ、昨日からありがとう」
ハニカミながら言う。
「佐藤…体…大丈夫?」
「…大丈夫」
航平君の問いに答えてから
「いろいろ…ごめんなさい」
涙が出そうになる。
弱い自分が嫌。
神林君に騙されていた自分が嫌。
航平君に迷惑かけている私が嫌。
ていうか、泣くな私。
必死で涙を堪えていると
「何で謝るの?」
航平君が問うた。
「え?」
顔を上げる。
「佐藤は、何も悪い事してないだろ?だったら謝る必要ないって」
航平君は、笑ってくれた。
「でも…私…迷惑ばかり…かけて…」
「別に迷惑だなんて思ってねぇよ」
だけど、俯いて泣きそうになっている私に
「じゃあ…」
航平君は、おもむろに腕を伸ばす。
「お礼って事で…」
そう言ってから、私の顔を引き寄せて唇を合わせていた。
ファーストキス・セカンドキスは、唇を重ねただけだったけど
今度のは、少し違った。
唖然としている私の口の中に何かが入ってくる。
それが航平君の舌だと気付くのに時間は掛からない。
ディープキス…っていうの?
自分の口の中に他人の舌が入るって、気持ち悪いって思っていたのに。
何だろう?
変な感じがする。
…キモチいい?っていうのかな?
この感覚分からない。
でも、とろけてしまいそうな感じがする。
やっぱり航平君、キス上手いのかな?
いっぱい経験しているのかな?
そう思うと胸が苦しくなった。
唇を離すと、あの切なそうで熱い眼差しがある。
「そんな…顔をするなよ…」
航平君の一言に
「え?」
驚いている私がいる。
航平君は、唇を噛んで
「ありがと」
素っ気ない感じで保健室を後にした。
え?
え?
もしかして、私、変な顔してた?
うっそー
恥かしい…
恥かしすぎるよ
なんでこう
私って…ダメダメなんだよ!!
あーん、もう
航平君に、変な女の子だって思われたじゃない。
もうやだ…
これ以上、印象悪くしたくないよー
半泣き状態の私。
そこに加納先生が戻ってきた。
「佐藤さん、お母さんがお迎えに来たよ」
そう言ってお母さんと一緒に入ってくる。
「ご迷惑をおかけいたしました」
お母さんが深々と頭を下げている。
「いえいえ」
加納先生がニコニコ笑って応対している。
私は、鞄を手に取る。
「お大事ね」
加納先生の言葉に
「はい、ありがとうございます」
深々と頭を下げた。
「…ごめんね」
お母さんに言うと
「何を言っているの?お母さんなんだからね」
お母さんは、笑いながら言う。
「…うん」
涙が出そうになるのを堪える。
あぁ、私、親に愛されているんだなって感じた。
「ねぇ、お母さん」
「何?」
「私ね…好きな人がいるんだ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます