『保健室』

「しつれーしまーす」


慣れた口調で凛ちゃんは中に入る。


凛ちゃんは、部活とかで怪我した子をよく保健室に行く。


…それに私も時々、怪我をするからね。


深田さん達に怪我させられる時もあるけど、体育でよく転んだり怪我したりして。


私、トロいから…


「あらー津田さん」


保険医の加納先生。


中年の先生。


気さくな性格しているから、怪我や病気してなくても、生徒がよく保健室にやってくる。


いろんな相談を受けてくれて、適切なアドバイスもくれる。


だから、生徒は、加納先生を慕っている。


「先生、美奈が怪我しちゃって」


そう言って私を先生の前に連れて行く。


「ふんふん、どれどれ…」


先生は、私の手を見て


「こりゃ相当強く打ったね。痛くなかったの?」


先生の問いに私は戸惑う。


「我慢してたの?」


凛ちゃんが驚いてる。


ほら、凛ちゃんが心配するから…


泣きそうなの我慢していたのに…


「美奈、あんたって…」


凛ちゃんが何か言いそうなのを


「まぁまぁ、落ち着いて」


加納先生が制する。


「あんたら、友達に心配かけたくなかったんだろ?おや、そういやもう一人は?」


加納先生は、周囲を見渡す。


私には、もう一人親友がいるんだ。


「楓なら、生徒会の仕事だそうです」


凛ちゃんが答えると


「なるほどね…もうすぐ七夕祭りあるからね。生徒会としても忙しい…」


加納先生の言葉の途中で…


【ガラッ!!!】


ドアが派手に開いた。


息を切らせて勢いよく入ってきたのは…


坂本楓(サカモトカエデ)ちゃん。


高校に入ってからの私の親友。


生徒会の副会長さんで、結構忙しい。


楓ちゃん曰く


≪生徒会長が全く仕事しない!≫


そうだって…


性格は、とにかくおせっかい焼き。


私があまりにも、ドジすぎるから…


入学式の日に、私…派手に…転んで…


その時、手を差し伸べてくれたのが楓ちゃん。


それから仲良くなったの。


「美奈が怪我したって!!」


ズンズン中に入ってくる楓ちゃん。


加納先生に掴まれている私の手を見て


「また、深田達?」


怒った表情で言う。


「…みたい」


凛ちゃんが答えると


「凛!あんたどこいたの?」


楓ちゃんは、すまなそうに


「ごめん…先生に呼び出されて…こんな事なら、美奈連れて行けばよかった」


凛ちゃんが悔しそうに唇を噛む。


「…ごめんなさい」


私は、居たたまれなくなって謝る。


「美奈が、どうして謝るの?」


楓ちゃんの問いに


「だって…二人に…迷惑かけてる…」


泣きそうな顔になってしまう。


泣くな!!私!!


楓ちゃんは、私の頭をコツンと叩いて


「美奈が謝る必要ないって。深田達が悪質なんだよ。私達のいない時を狙って…どこまで卑怯なの」


楓ちゃんは、怒りを露わにする。


「そうだよ。美奈が反論出来ないの分かってて」


凛ちゃんもかなり怒っているみたい。


「あの…」


私は、二人に何て言っていいのか分からない。


「止めな!」


加納先生が叫ぶ。


「佐藤さんが、困っているよ」


加納先生の言葉に、二人は私を見る。


「あんたらが、佐藤さんを思ってくれているのは分かるが、友達困らせたらダメだね」


静かに諭す加納先生。


二人は黙った。


「あ、あの…」


私は声を上げた。


「凛ちゃんも楓ちゃんも、私の事思ってくれているから…だから…」


私の必死の言葉。


二人は、顔を見合わせて


「「美奈、ごめん」」


二人してそう言ってくれた。


私は、首を横に振って


「いいの…私が弱いから…自分の身も守れない弱虫だから」


そう言うと、二人は、フッと笑い


「美奈は、十分強い子だよ」


凛ちゃんが言う。


「そうだよ。あんな目に遭っていても、負けずに学校来てるじゃん。強くないと出来ないよ」


楓ちゃんが続けて言う。


強い…?


私が…?


そんな事ないよ…


私が学校に来てるのは…




"航平君に会いたいから"




そんな不純な理由だもの


きっと、それを知ったら、二人は私を軽蔑する。


だから…言えない…


絶対に…


俯く私に、加納先生は


「さ、治療するよ。湿布を貼っておくが、一応、病院に行った方がいいね」


そう言って、湿布を取り出す。


「ひゃ…」


冷たい!!


湿布を貼られた瞬間、声を上げてしまった。


は、恥ずかしい!!


加納先生は、ニコニコ笑って


「可愛いねぇ」


と言う。


せ、先生!!恥ずかしいです!!


顔を真っ赤にしている私に、凛ちゃんと楓ちゃんもクスクス笑いながら


「「美奈、可愛いでしょぉ?」」


口を揃えて言う。


二人まで、私を!!


耳まで真っ赤になる。


二人は私に抱きついてくる。


もう!!恥ずかしいよ!!


「はいはい」


加納先生が苦笑してるよ。


「坂本さんも、生徒会の仕事があるんだろ?早く行かないと、生徒会の面々が困ってんじゃないかい?」


加納先生の言葉に、楓ちゃんはハッとして


「しまった!会議放り出して来たんだった」


と、慌てて保健室から出ていく。


「何かあったら言いなよ!」


そう言い残して。


「忙しいね、楓も」


凛ちゃんが、肩をすくめながら言う。


うん、楓ちゃん忙しい。


副会長さんだしね。


先生は、包帯を巻いてくれて


「はい!出来た」


そう言ってから


「ほら、もうすぐ昼休みが終わる。さっさと教室に帰んなさい」


そう言って、よっこらしょ…と立ち上がる。


先生、年寄じゃないんだから…


加納先生は、両手を振りながら


「ほらほら行った行った」


私達を追い出すように言う。


「「はーい」」


返事をしてから、保健室を出て行く。


「これからは、なるだけ一緒にいるからね」


少し険しい顔で凛ちゃんが言った。


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