『航平ー保健室へ』

「ちょっと!」


そう言って、佐藤の腕を掴んだ小林。


だが、佐藤はそのまま倒れ込んでいく。


「え?」


小林は動揺して、クラスは騒然となる。


「佐藤!」


思わず立ち上がって、佐藤に近づく。


「あ、あたし、何もしてないわよ!」


小林が必死に言い訳している。


床に倒れ込んだ佐藤は、顔が青ざめていた。


そりゃ、あんな事があったから眠れなかっただろう。


精神的にもキツいハズなのに、学校に来て、平沢や小林が睨んでいるのに、俺の所に来て頭を下げて


緊張しまくっていたんだろうな


その緊張の糸が切れたんだと思う。


俺は、佐藤を抱えて


「保健室に行く」


と言った。


「ちょっと、何で航平君が!!」


平沢が不満を口にする。


「放っておけない」


そう言いきってから、彼女を抱えたまま教室を出る。


大丈夫だろうか?


本当、顔色が悪い。


病院に連れて行った方がいいんだろうか?


「安藤君、悪いわね」


いつの間にか、津川と坂本がついて来ていた。


「いや…」


俺は短く答える。


二人が俺をジッと見ていた。


「何?」


その視線に堪えかねて聞くと


「いや、安藤君にしては意外だなって思ってさ」


坂本の一言で、こいつらの目に俺が、どんな風に映っていたのか分かったよ。


「…別に、普通だよ」


そう答えてから階段を下りる。


「あらーぶっ倒れたんだ」


保健室に入ると加納先生が言う。


呑気な口調だな。


「仕方ないわなぁ。いろいろありすぎたんだし」


そう言いながら、ベッドを仕切っているカーテンを開けて


「ここに寝かして」


そう言う。


その言葉に従って、佐藤をベッドに横に寝かせる。


「大丈夫なんですか?」


俺の問いに


「大丈夫、ただの疲労だと思うし。もうすぐホームルームの時間になるから、教室に戻りな」


そう言ってから、俺達を保健室から追い出した。


「また、後で来ます」


津川はドアを閉めながら言う。


「ねぇ安藤君」


帰り道に坂本が俺に声を掛けてきた。


「何?」


「昨日は、何で、あそこにいたの?」


鋭い口調だ。


…どうしよう。


どう答えたらいいんだろう?


「…別に、偶然だよ」


そっけなく答える。


「…そう?」


二人の鋭い視線が痛い。


「ま、いいわ。見直したわよ、安藤君」


坂本の言葉に


「どうも…」


短く返した。

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