『航平-ジコケンオに近い感情』
佐藤が理科準備室を飛び出した。
泣きそうな顔してたな。
俺の印象ますます悪くなったよな。
当たり前か…
フッと笑う。
でも、あの震える唇。
何かイジワルしたくなる衝動。
彼女の顔に触れていた指を見つめていると
「おい!お前、佐藤に何したんだ?」
古川先生が入ってくる。
彼女とすれ違って、様子がおかしかった事に気付いたんだろう。
「別に…」
俺は、そっけなく答えた。
「ただ…優奈が怪我させたからな…」
「え?あの左手か?」
俺は、先生を睨みつけて
「腫れ上がっていたぜ。何、そんな人間に仕事させてんだよ」
少し感情を露わにする。
生徒こき使うのも、大概にしとけっての!
「お前、学校で、その口調は止めろ」
先生は、俺を窘める。
「別に、この時間、誰も来やしないさ。そうだろ?父さん」
父親を睨みつける。
小さい頃に別れた俺の親父。
それがコイツ。
母さんを散々泣かせて、不幸にした男。
「こう…いや、安藤!ここでは、それを言うのは止めろ」
親父の言葉に、俺は顔を顰めた。
生徒…しかも、問題児を息子に持っているってバレたら、あんたの教師生活に傷がつくもんな。
俺は、持っていた資料を机の上に置いて
「はいはい、では退散させていただきますよ…古川先生」
頭の後ろに手を組んでから、理科準備室を後にする。
…マジムカつくヤローだ。
廊下を歩いていると、平沢がやってくる。
俺を探していたらしい。
俺の姿を見つけると、表情が明るくなった。
…はぁ
面倒なヤツに見つかったな。
「どこに行ってたの?」
甘えた声で言ってくる。
「別に…」
別に俺が、どこ行こうが関係ないだろ?
俺は、そっけなく答える。
平沢は、俺の答えに納得してない様子だったが
「ねぇねぇ航平君、帰りにどっか行かない?」
また、甘えた声で腕を絡めてきた。
「わりぃ、今日、行く気ねぇや」
そう答えたら
「えぇ!!行こうよぉ」
気持ち悪いくらい甘えた声で言ってくる。
俺は、衝動を抑えて
「いや、今日は、帰る」
そう言ってから、絡めて来ていた腕を離す。
「なんでぇ?私とも付き合ってよ」
しつこいな…
お前は、女として見れねぇっての。
だが、口に出せば騒ぎになる。
コイツ、いや…コイツの親父は権力者だからな。
俺には、この学校の辞められない理由がある。
親父の事じゃないがな。
だから、コイツにはある程度愛想は振り撒かないとな。
「じゃ明日、良太達とか誘って、みんなで行こうぜ」
俺の答えが気に入らないんだろう。
「えぇ!!」
口を尖らせた。
コイツ、こういう仕草が可愛いとか思っているんだろうな。
「大勢の方が楽しいだろ?」
「私は、航平君と二人で行きたいの」
「俺は、みんなでワイワイするのが好きなの」
即座に俺は、答えて笑みを見せた。
平沢は、ぷいっと横を向いて
「しょうがいないわ。みんなで行きましょう」
と言う。
相変わらず、扱いやすい。
「じゃ、明日」
俺が手を振って去ろうとすると
「待って、途中まで一緒に行こ」
そう言ってついてくる。
…しつこいヤツだ。
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