第2話 妹in勇者パーティー
~妹視点~
私はマルタ・ファンダイク。18才。
ファンダイク家の者にして、勇者パーティーに参加した女です。
兄様を置いて、私は勇者パーティーに半ば強制的に加入させられました。
クエスト達成後、立ち寄った村の食堂で夕食の後、ゆっくりしていました。
「何書いてんの?」
すぐ右から不躾な顔が覗き込んできます。
勇者マオト・コセック。
私が付き従うべき男。
「あなたに見せるものでもないですよ」
今書いているのは兄様に向けた手紙。
マオトは強引に私の手から紙を取り上げるとしげしげと眺めました。
「いいから見せろよ。って何だぁ? これ、文字か?」
兄様への手紙は暗号化してありますからマオトが読めるはずがありません。
解読の呪文でも無駄です。私より魔力の低い者には解読できないようにしてありますから。
「くそっ……また兄様とやらか?」
「ええ。そうですよ」
私と兄様は定期的に手紙を送りあっています。
近況に、互いに送ってほしいもの、そして私からの質問と、頻繁にお会いできない分、手紙で兄弟の愛を確かめ合っています。
「また、あいつか」
「あいつとは何ですか! 私の敬愛する兄様ですよ!」
「はいはい」
突然の声に驚いた村人がこちらを振り向きましたが構ってはいられません。
兄様は若くして侯爵位を賜ったお方。私が何よりも敬愛する兄さまを馬鹿にすることは許しません!
この手紙だって兄さまのために書いているんですから!
無理をなさらないよう私が食事から睡眠、下半身の事情まで私が管理して差し上げたいのです!
「そんなことよりさ」
マオトは手紙を机に戻すと、私の首に腕を回してきました。
パーティーメンバーとはいえ馴れ馴れしいのでは?
腕から漂う酸っぱい汗のにおいに思わず顔をしかめてしまいます。
「なあ、今日こそ俺と寝ないか?」
幾度となく聞いたセリフを甘ったるい声で囁いてきます。
「ですからお断りします」
「なんでだよぉ。他の奴らは何回も抱かれてるんだぜ?」
自慢げに言ってますけどただ性欲猿だと暴露しているだけでは?
ちなみに、パーティーメンバーの戦士職のお二人はもう抱かれているのでしたっけ。
こんな金髪ヤリモクによく身体を許したなとつくづく感心してしまいます。
私がやんわりと腕を解くと、あからさまに顔をしかめながら、今度は腰に手を伸ばしてきます。
「何回も言ってますけど処女だから聖魔法が使えてるんですが、その点はお考えになって?」
私が兄上を差し置いて勇者パーティーに選ばれた理由、それは希少魔法『聖魔法』を使えるから。
聖魔法を使用するためには、適正のある者が純潔でなければいけません。
「あなたに身体を許したら困るのは未来のあなたですけど? それでもよろしくて?」
「だから何だよ。聖魔法以外にも使えるんだろ?」
「魔物の根絶からは遠くなりますけど?」
私たち勇者パーティーはこの国、マカリトール王国の国王から、民を襲う魔物を根絶するよう命を受け出発しました。
ダンジョンや森林などあらゆる場所に生息する魔物の中には、ボスと呼ばれる強力な魔物もいます。
ボスを討伐しなければその地域の魔物は永遠に出現し続けます。
「私の聖魔法がなければボスには傷をつけられません。そのことはあなたも重々承知だと思いますが」
「ああ、もういい。もういい。……チッ、使えねー女だな。ネトのところでも行くか……クソ。むかつくな」
マオトは突き放すように私の腰から手をどけると、宿の方へ向かっていきました。
どうせ他の女に慰めてもらいに行ったんでしょう。
聖魔法の適正なんてない方がましだったんです。
ずっと、一番そばで兄様を支え続けることができたのですから。
それから、手紙を書きあげ転送魔法で送り届けたことを確認して私も宿に戻りました。
☆
~勇者マオト視点~
「どいつもこいつも使えねえなぁ!!! 俺ぁ勇者だぞ!?」
バーカウンターにジョッキを叩きつけると、周りで飲んでいた村人の肩が震えた。
マルタに断られ、どうしようもなくなった下半身の世話をさせようとネトの部屋に言ったが、すでに鍵がかかっていて入ることができなかった。
結果、宿に併設されている酒場でヤケ酒を飲んでいた。
「どれだけの人間を救ってると思ってんだ!! 感謝しろよ!」
「ま、まあ落ち着いてください。水飲みましょ? ね?」
コップに水を注いで持ってきたウェイトレスを突き飛ばし、ジョッキに残った酒を一気にあおった。
「お前らもだよ!! 俺がいなかったら今頃お前ら皆殺しだったんだぜ!? もっと感謝しろよ!! 女の一人や二人食ってもおつりがくるだろうが!!!」
場が静まり返る。
「お、落ち着いてくださいお客様……!」
「命令すんな!! お前とヤってもいいんだからな!?」
そう言うと、ウェイトレスは短い悲鳴を上げて去っていった。
「お前ら!! 俺が今日どれだけの魔物を殺してやったと思ってんだよ!? なあ!?」
農地にのさばるタイラントボアの群れをせん滅してやったんだ。
俺の力で群れを率いるボスを討伐した。
俺の力で削られた地面と共に吹き飛んでいく様はまあまあ気分がいいものだった。
小麦か何だかわからないがぐちゃぐちゃになった作物の元はこの爽快感だけで取れただろう。
こんなにも活躍してやったのに村人はどうでもいい作物の話ばかりして一向に俺に目を向けない。
こんなクソみたいな村、クエストがなけりゃ一生来なかった。
「おい、さすがにやりすぎだ!」
止めに入った村人の襟をつかみ持ち上げる。
「やりすぎぃ? やめてほしけりゃ俺に土下座してみろよ。なあ?」
「わ、わかったから……おろして……ぐるしい」
顔が真っ赤になった村人を放り投げるとそのまま床に頭をこすりつけた。
「……勇者様。申し訳ございませんでした……!」
「それでいいんだよ!! お前たちは俺にへりくだるだけでいいんだよ!! 余計なこと考えんな!!」
まったく。どいつもこいつも礼儀と感謝を知らない。
ここは王宮からも遠いし、勇者の偉大さすら教育されていないんだろうな。
だったら俺が、勇者自ら身をもって教えてやらねえとなあ?
この世の救世主様との付き合い方をよ。
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【あとがき】
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