第7話 経験値ダンジョン

 ファンダイク邸から数キロのところにそれはある。

 森の中にひっそりとたたずんでいる小屋の前にファンダイク家の私兵が集っていた。


「本当にここの下に……?」


 騙されているのではないかとレイアは小屋の周囲を探りまわっていた。

 今回レイアは唯一使用人として同行している。

 他の使用人たちも戦えないこともないが、その中でも飛びぬけてレイアは実力があった。


 それにレイアには他の任務を任せようと思ってるから強いに越したことはない。


「突入するぞ。準備はいいか?」


 小屋を震わせるように雄たけびがあちこちから響く。

 われ先に戦いに行こうと入り口に群がり男くさい押しくらまんじゅうが出来上がっていた。


 カチリと小気味よい音が鳴り、静かに扉が開いていく。

 埃っぽい小屋を奥へと踏み込んでいく。

 薄暗い小屋の中には家具はなく、ただ地下へ続く階段が最奥に鎮座しているのみ。


「入るぞ」


 ダンジョンの中は遺跡のような見た目だった。

 少し進むと、横道からぴょこんと魔物が飛び出してきた。


「メカニックラビットだ!! 追え!!」


 機械仕掛けのウサギは俺たち姿を見つけるとすぐさまダンジョンの奥へ逃げていく。

 その後を追い、兵士たちがダンジョンの奥へ駆け出して行った。


 このメカニックラビットが現時点でレベリング最高効率の魔物だ。

 1体討伐するだけでも、俺が倒したトロールの3倍の経験値をもらえる。


 メカニックラビットは地上にもまれに発生する魔物だがその確率が極めて低い。

 そのためこのように乱獲してレベリングできること自体貴重な体験になる。


 すばしっこいから走り回るし、小さいながらも威力の高い攻撃も放ってくるから戦闘経験を積むのにももってこいだ。


 それにこのダンジョンは罠もないし入り組んだ道も少ないから迷う心配もない。


「レイア、俺も行ってくる。自由にしていいよ」

「承知しました。お気をつけて」


 兵士たちがあらかたダンジョンの奥へ消えていったことを確認すると、俺もダンジョンの奥へ歩き出した。


 ☆


 ~妹マルタ視点~


「どうだマルタ!!」

「はぁ、すごいですねマオト様」


 どや顔でこちらを振り返るマオトの先でスライムが塵となっていました。

 彼は全身スライムの粘液まみれで何とか討伐したといったところでしょうか。


 たかがスライム1匹にここまで誇れるなんてある意味うらやましいです。


「なんだマルタ? 何が不満だ」

「いいえ。何もありません。ただマオト様の実力に感銘を受けていただけですよ」

「そうか!! もっと褒めてもらってもいいんだぞ!!」


 そういわれましてもスライムの討伐でほめることなど多いわけがありません。

 貴族の公務から領地経営まで幅広く行われている兄様のように努力しているならまだしも初心者御用達の魔物で誇られても何も出てきません。


「マオトさま~! アタシたちも討伐できました~!!」


 媚びるような黄色い声を発しながら残りのパーティーメンバーが森から戻ってきました。

 赤いショートヘアーの戦士ネトとエルフの弓兵セネカは二人で魔物を討伐したようですね。


 セネカはマオトに駆け寄ると腕を絡ませました。


「マオトさまが教えてくれたおかげですぅ」

「そうだろう! 俺を誰だと思っている? 勇者だぞ?」


 何ですかそのダサいセリフは。

 勇者ってそんなに偉いのでしょうか。魔物を討伐する才能があるだけの一般人なのではないでしょうか。


「おいマルタ。レベルは上がったか?」

「いえ。レベルなんてすぐに上がるものではありません」

「お前たちは?」

「ウチらもまだっすね~」


 ネトもセネカに対抗するように腕を絡ませました。


「勇者様はどうっすか~?」

「3か月ぶりだが上がったぞ! 1レベル!」


 1レベルに3か月ですか……。

 魔王を倒すにはまだまだかかりそうですね。


「でもなぜ成長しないんだ? ここら辺の魔物は効率が悪いのか?」

「勇者様にとっては弱っちいからかもしれないっすね~」

「そうか! そうなんだろうな! おい、マルタ。効率を上げる魔法はあるか?」

「魔法は万能じゃないんですけど。そのような魔法は知りません。レベルの高いところに行けばいいんじゃないですか?」

「チッ、使えねー」


 使えなくて悪かったですね。


「マオトさまぁ、レベリング効率のいいダンジョンの噂なら聞いたことありますぅ」

「本当か!? なぜ最初から言わなかった?」

「いや~噂なんでぇ、嘘だったら勇者様に申し訳ないじゃないですかぁ」

「噂でもいいから言え。隠すことは許さん」

「ごめんなさぁーい。今日の夜はアタシがお相手しますから。それで噂なんですけどぉ、ファンダイク領のバーが経験値ダンジョンを持ってるとかいないとか~」


 ファンダイクの名を聞いた途端、皆の視線がこちらを向きました。


「知りませんでした。市街地に出ることは少なかったので。逆にセネカが知っていた理由を知りたいですね」

「長生きですから~。それだけ噂は耳にするんですよぉ」

「どうでもいい!! 早くそのバーに向かうぞ!!」


 こうして突然の帰省が始まりました。

 兄様に会える隙があればいいのですが。


─────────────────────────────────────

【あとがき】


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