第17話 私は

 ~マルタ視点~


 我々がファンダイク領に滞在して1年が経ちましたが、いまだに兄様とお会いすることができていません。


 宿の自室の机にはこんもりと兄様から頂いた手紙が積みあがっています。


 お手紙によると税制の見直しや兵団の育成などで忙しいようです。家に戻ることができれば兄様の側でお手伝いするのですが勇者パーティーもクエストや国王からの依頼などで忙しく、ゆっくり兄様と会う暇すらありませんでした。


「マルタ様、先ほどのお釣りです」


 酒場の給仕姿になったレイアから渡されたのは1枚の銀貨。

 レイアを使って兄様は勇者マオトについても探りを入れているようです。女好きで酒を飲んでも飲んでなくても問題を起こして、おまけにいつも偉そうな勇者なんて不信感以外の感情を持てるはずがありません。


「そちらの一枚、お間違えのないよう確認をお願いいたします。では失礼いたしました」


 レイアが何事もなかったかのように去ったのち、私は銀貨を手に机に向かいました。


 レイアが念押ししてくるということはこの銀貨が兄様からのメッセージなのでしょう。暗号化している手紙でも書けないないようなことに間違いはありません。最近の兄様は昔のように感情的に物事を進めるのではなく、効率と論理を重視してファンダイク家を運営するようになっています。


 銀貨の裏と表の両面を見る限り、表面の国王の肖像も裏面の王族の紋章も変化はありません。


「魔力は……籠っている感覚はありますけどメッセージになっているわけでもありませんね」


 そもそも魔力を込めたところで魔力そのもので何かを表現することは不可能ですし……レイアが間違った銀貨を渡した可能性は、彼女の性格上ありえないでしょう。


「兄様からの課題、ということですか。その期待に応えて見せましょう! 『エア・レンズ』!」


 空中にできた楕円の気流によって銀貨の細部まで観察できるようになりました。


 裏も表も、拡大してみても何も仕掛けはなさそうですね……。


 側面は……あった。裏面と表面に分かれるように亀裂が走っています。


「開っ……かない! あっ、スライドなんですね」


 銀貨をこするようにスライドさせると、中から小さな紙が出てきました。

 紙切れは机の上で自動的に広がり、文字を浮かび上がらせました。

 魔法による圧縮ですか……何魔法で行ったのでしょう? 属性が判明すれば簡単に再現できそうではあるのですが……。


 いえ今は魔法なんて気にしている場合ではありませんでした……。兄様がひと手間加えた手紙です。『マルタがほしい』とか書かれている可能性もあるということではないでしょうか!?


『さすが、マルタ。このくらいのパズルが解けないことはないよな。

 魔王が魔法を用いた手紙を送ってきたから、試しに俺も送ってみた』


「魔王が手紙を……すぐさまからくりを解き明かしてしまうなんてさすが兄様です!!」


 続きに目を走らせます。


『勇者パーティーが近いうちにファンダイク領を離れると聞いた。その前におまえにも協力してほしい計画を伝えておく。


 お前には今後一切聖魔法が使用できない状態であると勇者を偽ってほしい』


 聖魔法は私が勇者パーティーに選ばれた理由であり、私が兄様のお役に立てる唯一の魔法、アイデンティティです。


『計画の最終目的はマルタを勇者パーティーから追放させること』


「私を、追放……?」


 別にあの好色サル勇者に未練があるとかではありません。ですが、私が追放される場合、私の貞操が無事である確率は低いでしょう。

 そもそも聖魔法ごときでは追放されないかもしれません。


『勇者と出会った時の感触なんだが、あいつはお前よりも弱い。身の危険を感じたら躊躇なく抵抗してくれ。レイアもファンダイク領外でお前をサポートするように言ってある。


 具体的な内容は、簡単だ。勇者パーティーがファンダイク領を出た直後、魔王からデッド・サーペントをけしかける。聖魔法は使用せず、防御に徹してくれ。領地を出るまでに勇者のお前に対する評価を最底辺まで下げさせておく。精神的につらいかもしれないが、耐えてくれ。またお前が家に帰ってくるまで』


 手紙の内容はこれだけでした。


 読み終えると椅子の背もたれに背中を預け、深呼吸しました。


「~~~~!!!!!」


 私を連れ戻す!!??

 私、兄様のもとに帰れるの!!??


 ハァ~、その気持ちだけで幸せです……。


 幸せの前には困難がつきものというもの!! 勇者からの誹謗中傷なんて耐えてさし上げましょう!! そもそもあんな下半身にしか血流も栄養も行っていないような男など女の敵!! そんな人間に誹謗中傷されたところでダメージどころか『嫉妬ざまあ』くらいの気持ちです!! 兄上の側に帰ることができるのなら聖魔法ごとき封印しましょう!!


 そもそも私が聖魔法の鍛錬をした理由は、兄様の1番そばにいるため。幼少の時から優秀だった兄様に並び立つには聖魔法しかなかったのです。


「私を兄様から横取りした国などもはやどうでもいいです。私は片時も離れず兄様のそばにいることができればそれでいいのですから!」


 この命は兄様のプレゼント。

 私の生涯は兄様によって支えられているのだ。


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