第18話 魔泉の森

 ~ヴィル視点~


 ファンダイク領と魔王領の狭間にその森はあった。ファンダイク邸に所蔵されていた文献によると古くから『迷いの森』、『地獄へと続いている森』など物騒な噂が絶えなかった森だそうだ。

 そのため日常的に森へ入る人間はおらず、人間側から得られる情報は微々たるものだった。


 しかし、実際はただの魔力の満ちた森である。内部は入り組んではいるが『迷い込んだら最後死ぬまで迷い続ける』みたいなホラーな森ではない。


「武器、食料、その他備品……確認してあるな」

「物資は問題ありません。ですが……本当に魔王領で魔物を討伐してよろしいのでしょうか……」

「問題ない。魔泉の森の魔物は魔王領の管轄外だそうだ。だから安心してレベリングするといい」


 魔王によると魔王領の管轄は魔王の魔力を基礎として発生した魔物のみであり、その他の魔力源から発生した魔物は同族とみなさないという。

 魔泉の森はその名の通り魔力が噴き出す魔泉を中心として形成されたエリアだ。内部の魔物はすべてこの魔泉の魔力を基礎にしており、何らかの原因で命が絶えるとまた魔泉へ魔力として還元されていく。


 このシステムから別名『無限湧きダンジョン』とユーザーからは呼ばれていた。


「最終目標は平均レベル30!! レベル35を超えたものには追加で褒美を与える!! では、解散!! 死ぬなよ!!」


 魔王から派遣されてくる魔物のレベルが28だから、こちらのレベルは30はあれば不測の事態が起きてもことはできる。


 短い掛け声を発し、兵士たちは森の奥へと散っていった。

 経験値ダンジョンと同じように討伐すればレベルが上がるが、ほぼ無抵抗のメカニックラビットとは違い、反撃してくる通常モンスターが討伐対象だ。これまで以上に仲間との連携、個人技どちらも要求される。


 後方で兵士たちの号令を眺めていたイレリアが隣にくる。


「俺らも行こうか。最奥、魔泉のある場所に」

「魔泉に向かうのは私たちだけ?」

「そうだけど?」


 別にここのボスなら俺たちで討伐することは可能だ。それに俺の目的は最深部に経験値ダンジョンのような異常の発生調査とボス部屋付近に迷い込んでしまった兵士がボスに遭遇してしまわないよう抑止すること。レベリングしたい兵士をとどまらせる意味がない。


「ってことは二人っきり……?」

「ん? 何かあるか?」

「い、いえ。何でもないわ」


 頭を抱えて戸惑っている姿は明らかに普通じゃないけど……。


「体調不良とかならすぐに言ってくれ。休憩しててもいい」

「大丈夫。大丈夫よ。ちょっと混乱しただけだから……」


 何かを振り払うように頭を振ると、スタスタと歩いていってしまった。

 混乱も普通に状態異常ではあると思うんだけど?


 少し先でイレリアが振り返る。


「それで、道はどっち?」


 ☆


「あのー、もうそろそろボス部屋なんだが……」


 イレリアは俺のにぴったりつけて歩いていた。

 ボス部屋にたどり着くまでイレリアは一言も発さず、俺の後ろをただついてきていた。


「……まだ振り返らないで。己を恥じているから」


 振り返ろうとした俺の頭を鷲掴みにし、思い切りひねる。


「見ないでくれるかしら。ほら、ボスいるわよ」

「わかった。わかったから……」


 ボス部屋、というよりボスエリアとなっている広場の中心にそいつはいた。


 つばの広いとんがり帽子を深くかぶり、黒いローブをまとっている姿は、魔女。

 茨魔女ウィップ・ウィッチである。

 ウィッチはこちらに気づくとニタァとゆっくり口角を上げた。


 ヨーロッパでは森には魔女が住んでいるという。

 まさにヘンデルとグレーテルのように俺たちは魔女を前にしてその圧を一身に受けていた。


「さすがに戦えるよな!?」

「任せなさい。そこまで無能じゃないわよ」


 隣に戻ってきたイレリアの手では魔力がその開放の時を待ちわびるかのように渦巻いている。


「『サンダー・ボルト』!!」


 先陣を切って電撃を放つ。

 空を切り裂くように走る雷は轟音とともにウィッチに直撃する。


「──!」


 衝撃で舞い上がった砂埃が晴れると、無傷のウィッチがニタニタと笑っていた。


「ああそうだったよ! 魔法耐性高いんだったな!」


 雷という具体的事象に変化していても魔法はしょせんは魔力の塊だ。

 そのため魔力の保有率の高い者は自身からあふれ出る魔力が魔法の持つ魔力を相殺し威力を弱めることができる。


 無傷ということはウィッチのほうが魔力の保有率が高いため魔法戦ではこちらが不利だ。


「──ヒヒッ」


 下卑た笑いを浮かべるとウィッチは詠唱を始める。

 魔女が掲げた掌には赤黒くうごめく魔力の塊。


「──!!」


 雄たけびとともに魔力の弾丸が雨あられと降り注ぐ。

 が、ウィッチの弾丸は風の防壁の前では無力だった。


「『エア・ロック』!! 防御するそぶりぐらいは見せなさいよ」

「それだけイレリアを信用してるってことだ」

「ちょっと、今そんなこと言わないで!」


 うろたえるイレリアの風を背中にウィッチに向かって地面を蹴る。


「魔法がだめなら肉体で行くのは当たり前だよな?」


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