第19話 魔王とは魔物の王であり勇者の敵……のはず

 魔女は咄嗟に腕で防御の姿勢をとる。


「遅い」


 腕の下を潜り込むようなローキックがウィッチのみぞおちに深々と突き刺さった。

 折れ曲がるように交代するウィッチの口からくぐもったうめき声が漏れる。


「──!!」


 長い髪を振り乱しながら発狂する魔女の手に新たな魔力塊が生成された。

 先ほどよりも規模も濃度も桁違いだ。


「最初っから本気出してくれないかな!!」


 幾重にも重なった魔力の弾幕が俺を追うように降り注ぐ。


 無慈悲に地面をえぐる様は現代のミサイル兵器と何ら変わりはない。


「ヴィル!! あたしの後ろに!!」


 俺が飛び退くと同時に半球状の風のドームが形成される。


 領域展開型防御魔法『エアリアル・グラス・ドーム』──。


 ドームの表面を吹き荒れる暴風とその下の高濃度の魔力の層によって物理系、魔法系の両属性攻撃に対応した防御魔法だ。

 生成に大量の魔力を消費するためゲームでもここぞというときにしか発動させなかった大技である。


「スタミナには気を付けてくれよ」

「任せて。あと10回はドーム張れるから気にしないで攻撃して」

「バケモンだな」

「ウィッチに生身で突っ込んでいくあんたに言われたくないね」


 弾幕が切れた頃合いを図ってドームを飛び出した。


「『付与エンチャント』」


 脚に纏わせた魔力が活性化された血流にのって駆け巡る。

『付与』は魔力によって筋力を増加させる強化魔法だ。


 ただ、筋力を上げるだけの魔法のため比較的魔法が苦手な戦士職でも使用できる魔法としてブレヴァンで重宝していた。

 物語の後半になると攻撃力が3倍近くにもなる魔法に発展するから単純な効果だと馬鹿にはできない魔法だ。


 強化された足で地面を力強く蹴り、肉薄する。


 通常、人間が出せないスピードに全身の骨がきしむ。


「──!!!」


 ウィッチは地面から茨を伸ばし、防壁を編み上げようとしているが、すでに俺は壁の内側に潜り込んでいた。


「ハッ!!」


 短い裂帛の気合とともにキックがウィッチの頭をとらえる。


「これで、お終いだ!」


 のけぞったウィッチの頭に鈍い音とともにかかと落としが入る。

 白目をむいたウィッチは仰向けに倒れていった。


 魔力の塵となって消えたことを確認し、イレリアのほうを振り返る。


 ボスもウィップ・ウィッチでゲーム内と同じだったし討伐後も魔力は余すことなくダンジョンコアに還元されていった。

 ダンジョンシステムには問題はない。


「今のところ異変はないな?」

「……い、いや、異変しかないわよ……」


 イレリアの瞳は揺れ、額からは戦闘中にもかかないような大粒の汗が伝っている。

 その視線は俺よりも奥、それも上空を指している。


「来てみたらあの魔女を討伐しておるとはの。こうして話すのは初めてじゃな。ヴィル・ファンダイクよ」


 年齢が低い者特有の甲高い声とは裏腹に年寄りのような口調。


「干渉しないんじゃなかったか? 魔王様よ」


 振り返るとそこにはがいた。

 別に存在自体が大きいとか見るからに強そうとかではない。むしろ幼女のような発展途上の体躯の端っこだけ爬虫類のコスプレをしましたとでもいうような一部の予備軍さんたちの癖を正面突破しくるなんとも威厳のない外観ではある。


 ただ、その小さな全身からあふれ出る魔力の波が実態となって俺たちの身体に骨がきしむほどの圧力をかけている。


「干渉はしておらんじゃろ。実際、お前の下僕には手を出しておらん。話をしようと思ってきたんじゃ。話だ話」

「話なんて手紙でしてくれ」

「お主、手紙だと本音を話してくれんじゃろ。直接話したほうが見抜けると思ってな」


 魔王は上空から降りてくると、てちてちとこちらに歩いてきた。


「お主、なぜそこまで勇者を敵対視する。お主ら人間にとって救世主なのじゃろう?」

「全員が勇者のことを認めているわけじゃないのさ」

「濁すな。お主、あ奴に関して何を知っている?」


 ルビーのような吸い込まれそうなほど大きな赤い瞳が、真実を逃がさんとでもいうかのようにのぞき込んでくる。


「俺は勇者パーティーに殺されるんだよ」

「根拠は? 妄言ではなかろう」

「そこまで言ってやる義理はない」


 では、と魔王は再び浮上し見えない玉座に座るかのように足を組む。


「この魔王ラムセウム・テンティリスの前で何を偉そうに。教えろ。人間」

「無理だ。それにまだお前とは恒久的な協力関係なんてものを結んでないからな。魔王そっち陣営だと思うなよ」

「だがお主とは勇者撲滅という目的は被っておるようじゃが?」

「まだ国王を敵にする時期じゃないんでな。何事も黒と白で判断するなよ魔王様。グレーってものもある」

「それを世では中途半端というのではないか?」

「世の中には中途半端がちょうどいいこともあるんだよ」


 俺はただためだけに勇者パーティーと対峙しているだけ。最終目的は魔王と同じだが理由が違う。

 加えてファンダイク家は武力も経済力まだ発展途上だ。国王、ひいては国全体を相手取るにはまだ早い。


「まあ、今回の勇者の件次第ではそちらにつかせてもらうかもしれないな」

「本当かッ!?」


 子供のように目を輝かせ魔王は身を乗り出した。


「約束だぞ! 忘れるなよ!! 絶対だからな!」

「確定ではないけどな。ほら、帰った。テン」

「略すな! ラムセウム・テンティリスだ!! 約束だからなぁぁ!!」


 そう言い残して魔王テンは自ら生み出した空間の狭間に消えていった。


 ─────────────────────────────────────

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