第21話 昼寝は魔導書の上で

まだぽっこりとしているお腹をゆっくり上下させながらふよふよと浮いている。それはもう気持ちよさそうに。


そもそもここは魔女ウィップ・ウィッチの家であり魔王の仮眠場所でも巣でもない。

というか魔王なら自分の城あるだろ、城の寝室のほうが寝心地はいいはずだと思うけど……浮いてるから関係ないのか。


起こして機嫌を損ねられても面倒だけど、ここまで来たら俺もすごすごと帰るわけにはいかない。


いつウィッチが戻ってくるかもわからない。

さっさと見つけて気づかれる前に戻ろう。


「──っ!」


俺が動いた拍子にギシッ、と床板がきしむ。


「──ふべっ」


寝返りをうった瞬間、ポテンと本の山のてっぺんに落ちてくる。


「いや、マジかよ……」


テンが寝ているすぐ下、マットレスになっている書物に見覚えがあった。

当時は荒いドット絵で見てたけど案外覚えているもんだな。


魔導書ネクロノミコン。

魔法補助系武器として最高ランクの魔導書で魔力増強、魔力消費半減、火力補助と魔法主体のアタッカーが喉から手が出るほど欲しがる性能を持つ呪いの書だ。


この書籍が俺の目当てのアイテムなのだが……。


「……んぁ? ひるねしておるってわからんのか……」


眠気眼のテンと目が合う。


「だれぇ?」

「……ヴィル・ファンダイクだけど」

「──はぁ? な、な、な、なんでおるのじゃ貴様ァ!?」

「こっちのセリフだ!! 帰ったんじゃないのかよ!?」

「我がどこにいてもいいじゃろう!!」


よくないから言ってんだけどな。


「お主は何でいるのじゃ!? もしかして、わ、我の寝込みを襲おうと……!?」

「違う。俺に幼女趣味はない」

「誰が幼女じゃ! 魔王じゃぞ!?」

「はいはい。マオーサマには興味ないですよ」

「ぼうとく!!」

「俺が興味あるのはそれだよ。テン」


いまだテンの尻に敷かれているネクロノミコンを指さす。


「な、我の下半身を指さして……! やはりお主、我の身体めあてで……!!」

「違うわっ!? 魔導書だ魔導書! お前が座ってるその本だよ目的は!!」

「魔導書……? ふーん、こいつかぁ」


テンは再び浮遊すると魔導書を抱え上げる。


「お主が我が配下にくだれば渡してやってもよいぞ?」

「いいから寄越せ」

「ぬわっ、急にうってくるな!! 当たったらどうする!?」

「あたる前に寄越すんだな!!」


『スパーク』をひらりひらりと躱し、テンは小生意気な笑みのまま魔導書を掲げる。


「へっへーん!! のーこんがぁ!!」

「まだ時期じゃないって言っただろ!!」

「じきってなんじゃじきって! こちらはいつでもいいぞ!」

「いつでもいいなら今じゃなくていいじゃねえか!」

「じゃあやっぱ今!!」


何で子供みたいな言い争いしてんのかなぁ!?

魔導書が欲しいだけなのに!!


やけくそ気味に放った『スパーク』がテンの右足に直撃した。


「キャッ……!?」


大きくよろけたテンが本の山脈に衝突し、本の洪水とともに俺の胸に飛び込んできた。


「テン……!!」


咄嗟に足元に風魔法を展開し部屋の外まで脱出する。

窓枠に盛大に打ち付けた背骨が悲鳴を上げた。


ドアが決壊し、本の洪水は俺たちの足元まで迫っていた。あのままテトを放っておいたら確実に飲み込まれてしまっていただろう。


「大丈夫か……?」

「余計なお世話だ。貴様がいなければ一人で避けれた!」

「はいはい。それよりもどいてくれませんかね」


テトは俺の腹にぴったりとくっつくような姿勢から慌てて身体を離す。


動いた拍子にふわりと甘い匂いが漂った。


「あ、ありがとうは言わないからな! お主さえいなければ華麗に脱出していたはずだから!!」


捨て台詞を吐くとそのまま入り口までてちてちと歩いていき、飛んでいってしまった。


「どうすんだよこれ……」


目の前に広がる大洪水に思わずため息が出る。

今からこの中から一冊の魔導書を探し出さなければならない。


トラブルメーカーとしては魔王級の実力があることに間違いはない。


洪水を起こしたのはほとんどが魔導書だ。

俺と魔王の魔力に反応しているのか、洪水の中で何冊か魔法を暴発させている。


「──あった」


片付けながら捜索していたから2時間はたっただろうか。部屋の半分ほどが片付けられた中でネクロノミコンを発掘し、家を出る。


「あっ……どうもー」


ちょうど家に帰ってきたウィップ・ウィッチとばっちり目が合ってしまった。

まあ、怒って、るよな。


「──!!!」

「ゴメン」


ネクロノミコンを開き、魔力を注いでいく。魔導書は基本的に増幅器ブースターとはよく言ったもので、その効果を発揮させるには俺自身の魔力を注がなければならない。


「『エル・サイクロン』!!!」


激昂したウィッチを包み込むように風の刃が取り囲む。

ウィッチは防御魔法を展開しようとするがことごとく風の渦に拒まれてしまう。


「──!!」


風の刃の渦が収まるころにはウィップ・ウィッチは魔力の塵となって吹き飛んでいた。


「帰ろう。さすがに疲れた……」


ページが吹き荒れているネクロノミコンを何とか閉じて、帰還した。


─────────────────────────────────────

【あとがき】


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