第43話 ここは、俺の聖域だ。

「今回登場致しますはデーモン・ノワール!! 遺跡に巣くうヒトの悪意を食らう悪魔でございます。ンンンンン、相当醜悪なんでしょうなァここの持ち主は!!」

「兄様、来ます!!」


 執務室の空間が引き延ばされテニスコート大の大広間に変貌していく。

 大広間の最奥、コアが埋め込まれた部分で生成された魔法陣から2本のねじれた角が浮かび上がる。


 現れたのは人型の異形だった。

 黒光りする歪な双角に、猛禽類のような鉤爪、筋骨隆々の漆黒の体躯。

 そのアシンメトリーな姿は人間の奥底をなでるような雰囲気をまとっていた。


「吾輩、防御は一流と自負しているのですが攻撃はからっきしでして。お任せしましたぞ! ファンダイク殿!」

「お前っ……逃げんなぁ!!」


 空間を切り裂くように退場していくアシに文句は届かない。


「──!!」


 デーモンの咆哮が大広間の大気を揺るがす。

 距離を取っていてもその体躯のスケールに腰が引けそうになる。


 でも、こいつはブレヴァンで経験済みの一般モンスターだ。

 弱点も攻撃パターンもすべて俺の頭にはある。


「援護射撃は任せた! 聖魔法多めで頼む!」

「了解しました兄様! お任せください!」


 同じ言葉でもここまで頼りがいが出るもんだな!


 マルタの言葉を追い風に、俺は地面を蹴った。

 両手両足に風の刃をまとい、肉薄する。


 デーモン系の魔物はとにかく硬い強い、うざい。

 風や水魔法での拘束ができないうえ、筋力にものを言わせた高速移動に爪で伸びたリーチで多くのプレイヤーを無残にも殺しつくし、そんなチート的性能から一時期は『制作陣の深夜テンション』なんて呼ばれていた。


 ただ、プレイヤーたちの涙ぐましい犠牲によって弱点も判明しているのである。


「火あぶりにしてやるよ!!」


 床一面を覆うように炎魔法のカーペットを展開、脚に纏った風に乗った炎とともにデーモンの腹を蹴りつける。


 風で巻き上げられた炎は火柱となりデーモンを焼いていく。


 確かに風魔法単体や水魔法での拘束は効果がない。

 そして、デーモンは炎魔法の耐性が比較的低い。


 つまり、耐性の低い炎魔法で拘束してしまえばいい。


「──!!」


 デーモンは激昂して咆哮するが身じろぎする度に全身を焼かれひるんでしまう。


「マルタ!」

「はい!『アーク』!」


 無数の光線がデーモンを貫いていく。


 悪魔デーモンの名の通り聖魔法にもめっぽう弱い。

 当てられればの話だが。


 しかしこうして拘束して行動を制限してしまえばあとはただ撃ちまくるのみである。


 光線に貫かれ、ぐずぐずになったデーモンの身体が魔力の塵に還っていく。


「いやはやお見事! ヴィル殿の速攻からの拘束! そしてマルタ嬢の聖魔法によるとどめ! ンン、吾輩感動いたしました! これこそ兄妹愛の連携でございますな!!」

「一人で隠れといて何言ってんだ」


 空間の亀裂から飛び出してきたアシがミュージカルのように両手を振り上げる。

 いちいち仰々しい。


「ンでは! ボスの設定といきましょうか! ボスはヴィル殿でよろしいので?」

「今度は大丈夫なんだろうな?」

「そこまで警戒しなくても大丈夫ですぞ! そんなに信用されないと吾輩悲しい」

「あなた、これまでの言動を振り返ってみてください。どこに信用する要素がありますか?」

「さあ! コアに魔力を流し込んで!」


 聞いてないし。


 ずずいっとコアの目の前に押し出される。


「さあ! どうぞ!」


 もうやるしかないか。


 意を決してコアに触れ魔力を流す。

 瞬間、部屋が元の執務室に戻った。


「これであなたがこのダンジョンの主でございます。魔力を流すことでダンジョン化のオンオフが可能となっているのでお忘れなきよう。では! 吾輩はこれで!」


 そう言うと大仰に礼をしてアシは空間の亀裂に去っていった。


─────────────────────────────────────

【あとがき】


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