妹が勇者パーティーに選ばれたので追放させてみた～悪役貴族に転生した俺は魔王の代わりに勇者をヤる

第42話 禊のデーモン

「これ、ただの魔物だろ？」

「ンンンンン、さすが魔女にも勝った男。この程度では引っかかるはずないですよね！」

　アシが指を鳴らした瞬間、肉塊から触手が飛び出し、襲い掛かる。

　手足をからめとろうとする触手を切り落とし、距離を取った。

「『ウィンド・カット』ですか……風系統の基礎的魔法で様子をうかがうという感じですかねぇ。ンンンンン、突然の事態でも冷静な判断だ」

「おい！　テン！　お前の部下だろ！　何のために来たんだよ！」

「あーすみませんファンダイク様、ファンダイク嬢。魔王様なんですが、来ておりません。擬態です」

　偉そうに机に腰かけていたテンの小柄な体躯が触手生物に変化する。

「気持ち悪いことすんなぁ！！」

「まあ、そういう役目ですからね」

　アシはまったく悪びれる雰囲気がない。

　机上の個体と、魔王に擬態していた個体、2体の触手が交互に襲い掛かってくる。

　その触手は徐々に本数を増やし、一向に本体部分に近づくことができない。

「きゃあ！？」

「マルタ！」

「別に吾輩も動けないわけではないですぞ！　油断大敵、たいてき！」

　アシは魔法を唱えようと魔導書を開いていたマルタの首筋をつかむとそのまま持ち上げた。

「くっ……！！」

「ンンンンン！！　やはり人体はいい！！　特にあなたのような魔力効率のいい人体には興味が尽きない！！　このまま持って帰りたいところですな！！」

「『アイス・ケイジ』！！」

　アシの身体にまとわりつくように霜がつき始める。

　霜はやがて大きく育ち、アシの身体はマルタをつかむ右腕を除いて氷漬けになった。

「ンンンンン冷たいですな！！　物理的にも精神的にもねェ！！　でも無駄ですよ！！」

　アシ自身が燃え上がるかのように炎魔法が発動する。

「マルタ！　すまん、頼んだ！」

「お任せを！　『アーク』！！」

　マルタはそう高らかに唱えると、光に包まれた。

　光は神性の証。

　退魔の権能の象徴。

　アシの身体がシューシューと嫌な音を立てて溶けだしていく。

「おお怖い！　そういえば聖魔法使いでしたね貴女！」

「忘れないようにもう少し身体を刻んでおきましょうか」

　マルタの反撃が始まった隣で、俺と触手との攻防も終わりに近づいてきていた。

「『エア・ロック』。さすがに防御以外で使ったのは初めてだ」

　俺を中心としたドーム状に発生した暴風に触れるたび、触手は弾け飛び魔力の塵に還っていた。

　触手も負けじと体液を吹き付けてくるがすべて暴風に弾かれて俺には届かない。

　もはや触手は生えるたびにちぎれ、ただの肉塊に逆戻りしていた。

「ンンンンン──戦闘力は申し分ないですな。では、ダンジョンを設置すると致しましょう」

「……はぁ？」

　アシはそっとマルタを下すと、乱れた椅子を直して再び腰かけた。

「あなたたちの実力を知りたかったので少し襲わせてもらいました」

「お前、自分の信頼度がどれだけ低いか分かって言ってんだろうな？」

「ええもちろん。ですが、これを見たら信用してくれるかもしれませんねぇ」

　そういうとアシは魔導書から鉱石のような無機物を取り出した。

「これは、見たことあるでしょう？」

「さすがにな。コアだな。見た目は」

　見た目はダンジョンに埋め込まれているコアと相違はない。

　ただ、先ほどのテンに擬態していた触手のような事例を考えると未だ警戒感は拭えなかった。

「正真正銘、ダンジョンコアですよ？　私は人を騙すのがキライなんですよ」

「どの面下げて言ってんだ」

「この面にて」

　アシと俺の視線が交差する。

「ですが、ある程度信用していただかなければこちらのコアを設置することは叶いませんよ？　疑っていては造れるものも造れないのは重々承知でしょう」

　人の悪い笑みがアシの顔に張り付いたまま剥がれない。

　呼び出した触手は倒され自分も反撃を喰らったというのに余裕のある雰囲気を崩さないのだ。

　まるでまだ本気ではありませんよ、と弄ぶかのように。

「……わかった。ついてこい」

「理解があって嬉しいですぞ」

「あなたのことを完全に信用したわけではないですから。下手な真似をしたらその首が飛ぶと思いなさい」

　魔力を迸らせながらマルタはアシを監視するように後ろにピッタリと並んだ。

「おお怖い。聖魔法の前ではおとなしくしているしかないですな」

　微塵も恐れていないようなふざけた口調のままのアシを挟み込むようにして、ボス部屋予定地まで向かった。

　その部屋は３階、中央階段の正面に位置していた。

　領主の執務室である。

「ンンンンン、いかにもという部屋ですな。豪華で傲慢な雰囲気がなんとも……似つかわしい」

　俺が応接室に入り浸ってから一度も執務室には行っていない。

　転生前の悪役ヴィル・ファンダイク当時のまま残されている。

「では設置いたしましょうか」

　アシが先ほど見せたコアを執務室の最奥に触れさせた瞬間、空間が歪み始めた。

「あ、そうそう言い忘れておりましたが本来ボスになる予定だった魔物が出現するので討伐、お願いいたします」

「先に言え馬鹿ー！！」

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