第15話 魔力の流出

「魔力が流出してる……このままだとダンジョンが崩壊するわ」


 イレリアは淡々と話す。

 自分が管理しているダンジョンが崩壊の危機にさらされているというのに彼女の表情からは焦りを感じない。


「原因は?」

「あれよ。壁中にある丸いやつ」


 イレリアが指さす先にあったのは赤黒く不気味に輝くツタの塊。

 先ほどまでスクラップの山に隠れていた壁にそれは生えていた。

 胎動するように光るたび、少しづつ塊が大きくなっているような気がする。


 そして、その塊の頂点ではツタが五芒星の形に絡まっていた。

 農村のトロールに続いて2つ目の五芒星だ。


 同一の存在が原因であることに間違いはないだろう。


 少なくともブレヴァンにはこのようなツタの魔物もオブジェクトも存在しないはずだ。


「あのツタが魔力を吸い取ってるみたいね」

「魔物ではなさそうだな」


 一応警戒しながら近づいたが何も攻撃してこない。


 それにしても謎のツタだ。のっぺりとした一枚岩の壁にひび割れすら残さず生えている。

 明らかに自然物ではない。


「これ、破壊しても問題なさそうだな」

「本当に? ダンジョンはのこしなさいよ」

「任せろ」


 そもそもこいつはダンジョンに寄生する癌と大差ない。加えて破壊後に魔力が放出されたとしてもダンジョンに吸収されるだけ。俺たちの身を魔力から守りさえすれば何も問題はないはず。


「『エッジ・ウインド』」


 俺の手から放たれた風の刃が根元からツタを切り離す。

 ツタはガラクタの上を転がると魔力の塵となって消えた。


「もう一回コアを調べてみてくれ」


 イレリアはコアに触れると首を縦に振る。


「うん。もう魔力の流出はしていないわね。当分は魔物の発生率が減るかもしれないから注意して」

「潜る兵士の量は減らすよ。助かった」

「いえいえ、あたしは何もしてないわよ。ドラゴンをソロで討伐しちゃったんだからね」


 そういうとイレリアは人の悪い笑みを浮かべ、俺の背後を指さした。


 振り返ると、開け放たれたボス部屋の扉にもたれかかるように兵士たちがこちらを覗いていた。

 この世界はボス部屋は一度開くと戦闘が始まっても閉じないみたいだ。基本的にブレヴァンはオフラインで遊ぶRPGだから横取りとかオンラインゲームで気にするべき問題がないからかもしれない。


「いや~さすがですな。ボスを単独で討伐されるとは感服いたしました」


 ちゃっかりと見物人に混ざっていた兵士長が後頭部をかきながらはにかむ。


「こんなに引き連れて何してんだ」

「お二人に何かあった場合に備えて待機していたんですが……必要なかったみたいですな」


 部下としては上司の危機に備えようとする忠誠心は感心するし、評価するけど、一人の人間としてはその危機管理能力の低さは驚く。


 人間は生き返らないからな。ゲームの中とは違うんだから。


「よくここまで下ってこれたな」

「任せてくださいよ。俺たちももう20レベルだ。メカニックラビットごときに手間取るなんてことはもうありゃしませんよ」


 兵士長に続いてぞろぞろと他の兵士たちも扉の陰から姿を見せた。


 いや、多いな。ざっと10人ぐらいは隠れてたのか。


「ヴィルさん、マジでレベルが違うな」

「そりゃ、俺たちより3レベルも高いからねぇ」

「そういうことじゃねえよ。俺が仮にヴィル様と同じレベルだとしてもギア・ドラゴンをソロで討伐とかできる気がしないって話」

「そもそも訓練してる兵士より強い貴族って存在自体がおかしいだろ」

「やっぱヴィル様っておかしいのか」

「おかしいだろ」

「そこ、全部丸聞こえだ」


 そりゃ、他の貴族は戦わないだろうよ。勇者が襲ってくるなんてイベント、発生しないからな。


「いい意味で、ですよ。いい意味で。ギア・ドラゴンなんてモンスター、そもそも存在すら知らなかったですし」


 兵士の一人の言葉に頷いたのは──俺以外。


 全員の視線がこちらを向く。


「どうして勝てるんですかね?」

「どうしてと言われてもな……」


 ブレヴァンの知識があるからなんて死んでも言えない。


「対魔物の知識があれば一般兵士だとしても魔物なら倒すことはできるさ」

「知識……ですか。知識ねえ……学業の方があんまりだったもんで……筋肉はあるんですがね」


 兵士長が山のような筋肉を見せつけるようにポージングする。


 まあ、その力を買って私兵として雇われてるんだから脳筋であることに今さら驚いたりしない。だけど、部隊を率いる兵士長ならば戦略的な知識は覚えておくに越したことはないだろう。


「俺も勉強に関しては特別にできたわけじゃない。覚える量もそこまで多くないしな。帰還後は勉強会だ。兵士長は必ず応接室に来るように」

「へい……勉強会ですかい……学生の頃の記憶がよみがえりますな……ハハ」


 あからさまに意気消沈する兵士長を引きずって俺たちはダンジョンを後にした。


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【あとがき】


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