第40話 国王裁判
~勇者視点~
マルタがパーティーから離脱した。
それだけなら両手を挙げて喜んださ。
「勇者マオトよ。貴様、自分の罪状は理解できてるな?」
ステンドグラスの後光に照らされた国王の古代彫刻のような顔が動く。
城の謁見の間に来たのはこれで2回目だ。
1回目は勇者として任命式に。
2回目は罪人として裁判に。
そんな男俺一人だろう。
情けないことにな。
罪状なんて理解できるはずもない。
そもそも俺は間違ってないからな!
「陛下、あのヴィル・ファンダイクの言葉を鵜呑みにしてませんか!? 戦闘に乱入してきたのは奴らです!」
「お前は我がそのような単純な男だと思うか?」
「単純な男だとは思っておりません! ですが、俺たちの証言も確認するべきではないかと!!」
「その
振り返ると、後ろで跪いていたネトとセネカが気まずそうに視線を逸らす。
「お前らァ!! 簡単に裏切ってんじゃねえよ!! どれだけてめえらに恩売ってきたと思ってんだよ! 全部仇で返してんじゃねえか!!」
つかみかかろうとしたが、両脇を衛兵に抱えられ、むなしくジタバタするだけになる。
大臣や役人たち、国の有力者たちの監視の中拘束されていく自分がなんとも情けなくなる。
こんなことにはならないはずなのだ。
勇者がその国の王に裁かれるなんて言語道断なはずなのに!
あの! あのヴィル・ファンダイクとかいう田舎貴族のせいで!
全てが! 全てが! あの男の手によって狂わされた!
「勇者マオト、いや罪人よ。刑を言い渡す」
淡々と裁判は進んでいく。
俺の話なんて聞いちゃいない。
そうだ。仕組まれたんだ。
騙されたんだ、俺は。
全てヴィル・ファンダイクの差し金なんだ。
でなければ勇者が堕ちるわけないじゃないか。
「罪人マオト・コセックに刑を言い渡す。装備、物資のすべてを没収ののち、2年間の強制労働を課す」
「陛下! いくら勇者とはいえ軽すぎやしませんか!?」
大臣の一人が叫んだ。
それでいいじゃねえか。国王も保身に走ったんだろうよ。俺を勇者に選出した自らの監督責任を問われたくないんだろ。
どいつもこいつも自分のことしか考えていない。
いや、あの大臣は正義感が暴走して人の気持ちを考えられてるか。
「一人の人間を殺そうとしたうえ、陛下に対する反逆の罪も上乗せされているのですぞ!?」
「ツフーヌル大臣、お前も我に反抗する。その認識でよろしいか?」
「い、いえ……国王様に反対しているわけではなく……この者に寛大な処置などもったいないのではと……」
だんだんと大臣の言葉が尻すぼみになっていく。
あーあ。こいつも自分が恋しくなりやがった。
もうこの国はだめだ。どいつもこいつも自分のことしか考えちゃいない。
この世界を救おうだなんて考えてた人間は、俺一人だったってわけだ。
バカバカしい。
独りよがりな人間しかいない世界で俺だけ他人のこと考えてるなんてな。
「だったら黙っていろ。これは国王の判決である。罪人は没収と強制労働。これで決定だ。連れて行け」
両脇を抱えられたままずるずると退場させられていく。
全員が独りよがりなら。誰も世界のことなど案じていないのなら。
もう俺も自己中になってしまえばいい。
「ああ、やっと覚悟が決まったぜ……ヴィル・ファンダイク、どんな手を使ってでもてめえを殺しに行ってやる……! 魔王領でも地獄でも俺はてめえを追いかけてやる……!!」
あの田舎貴族も俺を裏切ったあのクソ女たちも全員殺す。
幸い、勇者としての力は奪われていない。
魔法も筋力もレベルもそのままだ。
ただ金が要る。
「ほら! 入れ!!」
城の地下、罪人の懲罰房に投げ入れられる。
無機質な石の床の衝撃が背骨から全身に響く。
「強制労働は明日からだ! 減刑した国王様に感謝するんだな!」
そう吐き捨て看守は去っていった。
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