第54話 一国の王になるために
「同盟を結んでほしい」
テンの眉間に少しシワが寄っていた。
魔王の自覚マシマシの時の表情だ。
「お主の意思は理解した。だが民意は? お主はただの青年ではない。一国の領主じゃぞ」
「国境地域で何年も魔族と交易してんのに今さらだ。それに、敵対関係になっても国境で検問されるだけで人の流れは阻害しないしな」
そもそも俺が同盟関係を申し込んでいるのは魔物の中でも意思疎通ができる魔族だ。魔族となら国境ではもう人間社会に馴染んでいる。
「じゃが、我らと同盟を組むということは人類種に敵対するということになると思うんじゃが?」
「魔王領と協力関係になることを了承したうえ、兵団に至ってはファンダイク
これが現実世界だったらこうはならなかっただろうな。
剣と魔法の世界だけど、通信、移動手段の発展はまだ途上だ。
これが魔法によって現実世界レベルで発展していたら、多くの人の国境を越えた人間関係を絶ってしまうことになっていた。
「もちろん敵対することに反対の領民が一定数いることも承知の上だ。今まで稼いできた信頼と実績で説得していくつもりさ」
「
淡々とした口調から発せられる言葉が重くのしかかる。
もう魔王の道楽も好意も交渉のテーブルにはならないのだ。
並べられているは純粋な事実のみ。
「メリットはあるさ」
「領土などとは抜かすなよ。我は拡大は望んどらん」
進もうとしたルートに深々と釘が刺される。
「領土的な拡大は望んでなくとも経済的な拡大は否定してないだろ? メリットの一つ目は販路の拡大、製品の共同開発による経済的発展だ」
魔王城に出向いた時から気になっていた。
あの魔力を動力として建築、製造を行う技術、現代の電気技術と同質だ。
魔力を利用する機械など、この世界には存在しない。
つまり、製品化し、宣伝さえすれば売れる。
この剣と魔法しかない世界で機械が登場すれば発展の足掛かりにも対外的な抑止力にもなる。
加えて動力にも機構にも異世界知識は一つも用いていない。
発想こそ異世界人の俺が起点だが、設計等に関わらずマネジメントだけに注力すれば影響はないはずだ。
この世界の人間がこの世界にある動力を用いて、この世界の人間の知識と発想だけで新しい機械を発明する、その土台を醸成するだけなのだ。
「で、二つ目だが……仲間は多い方がいい、だろ?」
別に俺は日本で外交官だったわけでも政治家だったわけでもないから、詳しい政治は何もわからない。
というかここまで高校程度の知識と、即興力だけでやってきたのを褒めてほしいくらいにはただの一般社畜なのである。
それに貴族に転生したからといってマナーも公務も初心者レベルでしかない!
そんな一般人だからこその無邪気な発言。
「同盟を断ればファンダイク邸にいられなくなるんだぞ? イレリアのコーヒーは飲めるかもだがマルタの紅茶もレイアの料理も一生食えなくなるぞ?」
大真面目に、そして楽しそうに。
俺はテンとの共闘を望んでいる。
それらすべてを表情に載せて。
テンの瞳がふわりと大きくなっていく。
瞬間、ヒマワリの種を蓄えすぎたハムスターみたいに頬を膨らました。
「それはずるいじゃろうが!! 飯で魔王を釣るな!」
エビで鯛が釣れたどころか、魔王が釣れたわ。
「同盟は結んでやろう。ただし! 民意も
「もちろんそのつもりだ。言われなくてもな」
魔王ラムセウム・テンティリスから受けた課題、それは寿命も考えも、生命システムすら異なる敵対関係だった2種族をたった一人の力で融和させること。
一般人だった俺には高すぎる壁だ。
能力も頭脳も平凡という言葉が一番似合う。
魔法は少しだけ得意。
そんな男が取り組むにはお門違い過ぎて書類選考の時点で落とされるような難題。
──でも、その道を俺は選んだんだ。
死なずに解決させるさ。
「なあ、魔王」
「ま、魔王か。うむ、なんじゃ」
「音声を遠隔地まで伝えることってできないか?」
空間はどこぞのドアみたいにつなげることはできるんだ。
音を伝えることもできればいいんだけど。
「できるぞ。空間を切り裂いて放置すればそこから音も漏れる」
「ほんと、何でこの技術が魔王領から流出してないんだろうな」
人間世界と文明レベルに差がありすぎるんだよな。
「我らは交流をしなかったからな。して、なぜじゃ?」
「決まってる。建国にはまず国王の演説、だろ」
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